ヘルパーが描く「介護漫画」が共感されまくる訳 現場で働く漫画家の彼女が人生で得た悟り

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子どもを預かる場合、親が目的地を決めておいてくれる場合もあるが、単に

「朝9時から夕方6時まで、この子をどっか連れていっておいてください」

とだけ言われることもあった。

9時間、障害のある子どもと外で過ごすのは大変だ。

「どこに行ったらいいかわからないから、大変でした。プールが好きな子は泳いで時間を潰せるんですが、それでもせいぜい3時間くらいです。お金のかからない図書館に行って時間を潰したり、延々一緒に電車に乗ったり……。その間、片時も目は離せません。私がトイレに行きたいときは、障害者トイレの中に子どもを入れて目の前で用を足さないといけません」

そんな介護の仕事はかなりの重労働だった。

その頃はまだ1~2本は4コマ雑誌で漫画を連載していたが、新しく振られる仕事は断っていた。意図的に仕事を減らしていて、このまま漫画業界からフェイドアウトしようと思っていた。

日々介護の仕事を頑張っていたのだが、障害者支援の仕事が人員の問題でなくなり、急に時間に余裕ができてしまった。

介護の漫画をエッセイ風に描いてみた

「そのとき、ちょっと介護の漫画をエッセイ風に描いてみようかな? と思ったんです。そのときは商業誌で描くつもりはありませんでした。友達に『商業誌に描かないんだったら、同人誌で出さない?』と誘われました。10部だけコピー本を作りコミケの友達のブースに置いてもらうことにしました」

コピー本は、10部のうち7部が売れた。

「7部売れたのがすごくうれしかったんですね。共感を得られたような気がしました。それで、残った3部を編集者に送ってみたんです。

『仕事が欲しい』

というのではなく、

『私は今、こんなことやってるんですよ』

というのを旧知の仲の編集さんたちに知らせたかったんです」

編集者からはすぐに

「介護の漫画を描きませんか?」

と打診が来た。

一時は漫画をやめようとまで思っていたが、介護の漫画なら描きたいと思った。

編集者からは、描き下ろしでコミックを発売したいと言われたので、介護の仕事をしながらコツコツと原稿を書き溜めた。

訪問介護を辞めた後は、特別養護老人ホームで働き始めたため、そこの経験も大いに盛り込まれた。

「特別養護老人ホームはとにかく仕事量が多いです。おむつ交換、食事介助、着替え介助、入浴介助、と一通りのことができなければなりません。

介護のスキルがほしいと思っている人は、特別養護老人ホームで働くのが近道じゃないかな? と思います」

そして2015年、

『40代女性マンガ家が訪問介護ヘルパーになったら』(双葉社)を発売した。

「介護の仕事を始めて2年のところだったので、それまでの経験を漫画にしました。

単行本が発売されると、介護の仕事をしている人からSNSやメールでたくさんの意見をもらえました。自分の描いた漫画が響いているんだなと実感できてうれしかったですね」

次ページ自分の経験を人に話すより漫画のほうが伝わった
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