外食企業「テイクアウト&宅配」で分かれた明暗 「勝ち組」外食チェーンにも残る宅配の課題

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日高屋の多くの店舗は繁華街の駅前にあり、「新宿や池袋のような繁華街の駅前店舗で我々の中華そばを購入し、それを電車に持ち込み、家に帰って食べるということは正直期待できなかった」と、ハイデイ日高の島需一取締役は語る。

しかし、需要の高まりを見据えて、持ち帰りサービスに本腰を入れた。2019年10月に検索&予約受付サイト「EPARK」を、同12月にはLINEと連携したテイクアウト予約サービス「LINEポケオ」の運用を開始。電子レンジの加熱に耐える容器も用意し、従来2%未満だった店外飲食の売上比率は5月には9%強に上昇した。「店内飲食では男性客の割合が7~8割だったが、テイクアウトでは女性客の利用が7割と逆転している」(島取締役)。

生き残りかけ、値下げ合戦も

デリバリーとテイクアウト需要は今後も続くのか。「リモートでの仕事が定着することが想定され、自宅で気軽に食べられるデリバリーやテイクアウトの需要は続くだろう」とみる業界関係者は多い。

前出の澤田アナリストは、「外食企業の営業利益率は高くても5~10%程度と非常に低く、ほんの数%売り上げが落ちるだけでも経営に打撃を与える。大半の外食企業は売り上げの多くを店内で稼いでいたため、店内に人が戻ってきてほしいのが本音だ。しかし、コロナでその構図は大きく様変わりした」と見通す。

とはいえ、デリバリーやテイクアウトサービスの乱立で、消費者の胃袋をめぐる争奪戦の激化は必至だ。牛丼チェーンの松屋のように、テイクアウトやデリバリー利用者向けに値下げをしたり、送料を無料にしたりするなど、なりふり構わぬ「値下げ合戦」を繰り広げている企業もある。

新規参入組にとっては、認知度向上も課題となる。「やよい軒がテイクアウトを始めたことが浸透しておらず、5月は1店舗当たり1日10食程度の売り上げしかなかった。広告戦略の巧拙が今後の展開のカギ」(プレナス広報)と語る。

デリバリー強化の課題も多い。出前館やウーバーイーツなどを活用する場合、消費者が支払う価格は高くなってしまう。ウーバーイーツなどに支払う手数料に配送料も上乗せされるため、消費者は店内で食べる場合の2倍以上の金額を支払うケースもある。外出自粛が緩和されたいま、店内飲食よりも割高な価格がどこまで消費者に受け入れられるか不透明だ。

自社でデリバリーを手がけることも簡単ではない。配達員の確保が難しいうえ、確保できても配達員の事故のリスクがつきまとう。また、ドライバー管理システムの構築や食中毒対策の強化、配達用のバイクや車の購入など、クリアしなければならない問題は数多くある。現在、自前でのデリバリーを積極的に手がけている外食企業は、日本マクドナルドHDやすかいらーくHDなど売り上げが数千億円規模の大企業が中心で、一定の規模がないと採算を確保できないのが実情だ。

店内飲食の売り上げ回復に時間がかかる中、苦境に陥ったチェーンはテイクアウトやデリバリーに一斉に舵を切った。しかし、課題は山積みで、外食各社が頭を悩ませる日々は長く続きそうだ。

中尾 謙介 東洋経済 記者

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なかお・けんすけ

1998年大阪府生まれ。現在は「会社四季報」編集部に在籍しつつ水産業界を担当。辛い四季報校了を終えた後に食べる「すし」が世界で1番美味しい。好きなネタはウニとカワハギ。

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