コロナが映す「平和な社会」に必要な5つの視点 民主主義の走錨とまだらな発展が浮き彫りに

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第3に、国際協調主義の退行が見えた。

グローバル化は「人の国際的移動」を前提に、モノ、カネ、情報が国境を自由に行き交う国際社会を推進してきた。その結果、新型コロナ感染拡大の理由の1つを、自由に国境を行き交う人の国際的移動に求めることもできよう。感染の収束後、強い反動によって移民・難民をいっそう排斥する動きが予想される。なによりもEU懐疑派の台頭でさらなるEUの亀裂も考えられよう。

ヤシャ・モンクの著書『民主主義を救え!』で4分類した1つ「非民主的なリベラリズム」(民主主義の赤字)がEU内の不満を高め、EU内の人の移動を保障するシェンゲン協定の見直しもEU議会などのアジェンダにあがるのではないか。ポピュリズム政治はいっそう欧州で勢力を持ちそうな雰囲気である。

トランプや右派・右翼政党が主導するポピュリズム政治指導者・政党勢力が疎んじてきた国際協調主義の再構築の必要性を明確にしたことも明らかである。グローバル化にともなう「人の国際的移動」が引き起こした問題と考えるよりも、むしろ国際協調主義の退行こそが今回の脅威の元凶となったのではないだろうか。「自国第一主義」の風潮こそが各国間の重要な情報提供の遅れとネットワークの欠如を生み、多国間協調主義を基本とする国際機関WHOとの協力関係を遅滞させたのではないか。

政府間の透明性を持った国際協力が重要

そうであるならば、中国型の権威主義政治体制よりも、自由に情報・意見交換が保障される自由民主主義、かつ国境を超えて国際協力が前提となる国際協調主義、多文化共生主義を促進していくことこそが教訓ではないだろうか。今回のような新興感染症の拡大防止には、なによりも政府間の透明性を持った国際協力が重要であるからだ。現在、米中で展開されている中傷合戦は、トランプ政権によるWHOに対する分担金の拠出停止や脱退までに至っている。WHOが「中国寄り」「中国中心主義」であるというトランプ政権による批判が背景にある。

グテーレス国連事務総長が米中の覇権争いに対し、「今はそのときでなく、WHOの資金を減らすときではない」(各紙報道)と述べているように、脆弱な医療のアフリカ、南米への感染拡大を食い止めることを最優先にした国際協調が求められている。

今回の米中間の対立は両国内に抱える「内部要因の外部転嫁」に過ぎない。トランプ大統領と習近平国家主席ともに内政への悪影響を外部である米中に矛先を向けたのであろう。アメリカは「人間の安全保障」を最優先に自由民主主義国家であればこその平和な社会の構築を促すべきである。中国から発症した新型コロナウイルスは、「米中対峙」を超えて、世界全体の危機として世界全体で乗り越えなくてはならない「人間の安全保障」の問題なのだ。

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