コロナが映す「平和な社会」に必要な5つの視点 民主主義の走錨とまだらな発展が浮き彫りに

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他方で、所得向上を果たしてきた新興国の新中間層は世界の生産循環が行き詰まることで、雇用を失うことになった。富裕層の富の基盤は中間層の労働自粛や放棄、それに連なる企業経営の弱体化や究極の倒産へと展開していくことになった。要するに、グローバル化経済で効率性、コスト削減を追い求め、中間層を貧困に追いやってきたことが、今回のコロナ禍でより大きな被害が富裕層自身にもブーメランのように戻ってくることになった。その意味で、貧困化した先進国の中間階層の再構築こそが経済社会・政治社会の基本的安定の前提となることが今回の教訓でわかった。

ただ、依然として社会的弱者層への大きな被害は国際社会が果たすべき人権の放棄として受け止めざるをえない。爆発的に感染が拡大しているアメリカでは、黒人やヒスパニックらのマイノリティの死亡率の高さが指摘されている。ワシントン・ポストの報道では黒人が多数を占める地区は白人が多数の地区に比べ、感染率が3倍、死亡率が6倍の違いが生じているという。いまや、アフリカへの感染がはじまったことで、医療へのアクセスがもともと脆弱であることからWHOは今後アフリカにおける数千万規模の感染拡大を危惧している。最貧困層の問題は「人間の安全保障」が依然として浸透していない証左であろう。

浮き彫りになった西欧型「自由民主主義」の脆弱性

第2に、西欧型「自由民主主義」の脆弱性が浮き彫りになった。

中国からはじまった新型コロナの感染拡大であったが、中国は共産党一党独裁の強権政治のもと、マスクの買い上げ、簡易病院の緊急建設、罰則をともなう外出禁止令など有無をいわせぬ感染防止に取り組んだ。その結果、早期の感染拡大を抑える成果をあげた。欧州への感染拡大が始まった3月10日に習近平国家主席は感染発症の地、湖北省武漢市を訪問して、中国の感染封じ込めの政治的成果を内外に訴えるパフォマンスを披露した。

他方で、イタリア、スペイン、さらにはアメリカへと感染は拡大の一途を辿るが、中国政府は西欧の感染拡大を尻目に西欧型自由民主主義の脆弱性を指摘する絶好の機会と捉え、国際世論の中国批判への反撃を開始した。自由民主主義体制の脆弱性に鋭く切り込む中国の「シャープ・パワー」戦略は、「リベラルなきデモクラシー」や権威主義政治体制へと舵を切る国々の後押しをする結果につながった。

社会的秩序を重視するアジア型の対策は一定の感染の歯止めになったものの、自由権を重視してきた西欧型の対策はあくまで個人の自己責任を前提に感染対策を講じた。「不要不急の外出禁止」措置も遅きに失し、患者数に対応できない医療崩壊が起きた国もある。イギリスのように罰金を科す防止策を導入しても基本は国民への協力要請であった。いったん感染が拡大傾向に入ると、得体の知れない、人類にとっての初めての新型ウイルスの場合は、自由権を前提にした自己責任型タイプの予防では感染拡大の歯止めにならないことを改めて示した。メディアを通じてみられた強引な外出禁止政策がどこまで人権との均衡が保たれるのか今後の課題となった。

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