メガ損保決算で読み解くコロナ影響の深刻度 経済活動の停滞が直撃、海外保険金の増加も

拡大
縮小

グローバルに事業を展開する3メガの今後を占ううえで重要になってくるのが、GDPの成長率だ。損保は「モノにかける保険」であり、生産されたモノやサービスの総和であるGDPとの相関関係が強い。成長率が低い日本や欧米諸国の保険成長率(収入保険料の伸び率)はそれほど高くないのに対して、ASEANなど成長率が高い新興国の保険は大きく伸びている。

IMFの発表によると、2020年の実質GDP成長率の見通しは、世界全体がマイナス3.0%(2019年はプラス2.9%)。中国やインドなど一部の国を除き、多くの国がマイナス成長に転落すると予想している。ちなみに、日本はマイナス5.2%(2019年はプラス0.7%)、アメリカはマイナス5.9%(同プラス2.3%)だ。

自動車事故はコロナで大きく減少

2020年は多くの国がマイナス成長に転じることによって、国内外の損害保険の販売が大きく落ち込む可能性がある。特に企業向けの保険の保険料は、企業の売上高に応じて算出されることが多く、企業業績が落ち込めば保険会社の収入保険料も減ることになる。

「業績予想は国内外の経済成長率が6月まではマイナスで、7月以降は回復していく前提で出しているが、想定以上に経済への影響が長引いた場合、トップライン(収入保険料)や保険金支払いの増加、資産運用益の減少など、さらに影響が出る可能性がある」(MS&ADの柄澤康喜グループCEO)。柄澤CEOが言うように、コロナ影響がどれだけ長期化するか次第だが、収入保険料の下振れ圧力は2020年の後半から2021年にかけて出てくるだろう。

ただ、新型コロナの影響はマイナス面ばかりではない。緊急事態宣言が発令され、外出自粛が続いたことで自動車事故は減っている。警察庁によると、2020年2月の交通事故発生件数は前年同月比8.7%減だったのに対して、3月は同17.6%減、4月は同36.2%減、件数は約1.1万件減って2万805件となった。それと比例するように、損保の事故受付件数も減っており、保険金の支払い減少が見込まれる。

また、テレワークやオンライン診療、オンライン授業など非対面でのサービスが広がる中、情報漏洩リスクをカバーするサイバー保険などのニーズも高まっている。新型コロナによる入院や収入減少リスクを補償する医療・傷害保険や所得補償保険の加入も増えているという。

企業向けの事故リスク削減支援や、BCP(事業継続計画)の策定支援などは、保険に付随したサービスとして、近年3メガ損保が力を入れている分野だ。新型コロナ禍での「新たな日常」に沿ったリスク対策が求められるだろう。

5月25日に緊急事態宣言は解除されたが、今後新型コロナの第2波、第3波の襲来も予想される。2年連続で大きな被害をもたらした自然災害が日本列島を襲う可能性も否定できない。さまざまなリスクに向き合う3メガ損保にとって、予断を許さない状況が続いている。

高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019~20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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