ロケットも売る「アフターコロナ」新商流の衝撃 習近平が推す「現代版テレビショッピング」

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新型コロナウイルスの影響で1月後半から全国的に自宅待機を強いられた中国では、1〜3月に小売業界の売上高が前年同期比で約20%落ちるなど、経済が全体的かつ大幅に冷え込んだ。しかしそうした中、オンラインでの実物小売り(アプリ課金などを除く)は逆に5.9%増になっている。

特に状況が最も厳しかった2月は、ほとんどの人が外に出られず、娯楽に飢えている時期でもあった。ライバーに質問するとその場で答えてくれるなどのインタラクティブな仕掛けがあるライブコマースは、スマホゲームや代わり映えのしないテレビ番組に飽きていた人々の心をつかんだ。

さらにライブコマースは、春節が終わっても店を再開できない、開いても客が来ないという出品側のニーズもとらえた。国の基幹産業の一つである自動車業界では、1〜3月のライブコマース放送数は前年同期に比べ15倍となり、春節前はディーラーの1%しか使ったことがなかったものが、3月の調査では86%が経験があると回答している。

また、アリババが大規模な投資を行って以来、着々とデジタル化を進める銀泰百貨店でも、全国65店舗の5000人もの従業員が毎日200回以上のライブ配信を行い、実店舗の売り上げ減少を補った。結果として、3月のタオバオライブ上での新規開店数は前年同期比3倍、ライブ実施数も同190%増と盛況だった。

旅行需要の壊滅により窮地に立たされたオンライン旅行代理店最大手のTrip.comも、トップの梁建章会長が自らライブに登場。国内のビーチリゾートの豪華ホテルなどを1回で1000万元以上も売り切るなど、ライブは「コロナ後」の旅行需要を取り込むための仕掛けとしても使われている。

大手参入がライバーたちにもたらした変化

こうした裾野の広がりにつれて、トップライバーたちやプラットフォームにも変化が出てきた。

4月1日には、もともとIT業界の寵児でスマホメーカーSmartisanを創業した罗永浩氏が、抖音のライブコマースの配信者として参入。Smartisan時代の競合であるシャオミ(小米)ブランドのプロジェクターをはじめ、お掃除ロボや食用ザリガニなどを紹介し、1回で1.1億元も売り上げた。

彼のファンの8割は男性とされ、彼自身もIT業界出身であることから、商品も彼の得意分野に合わせて選ばれた。放送内容自体は初めてということもあり、つたないものだったが、ターゲットにしても商品にしても主流とまったく違うものを売った彼の配信は結局、累計4800万人が閲覧。今までの課題だった、ライブ配信のファン層の拡大にも成功したといえる。

この業績は、彼個人の力だけで成されたわけではない。実は、抖音は配信の数日前からアプリ内外で大量のティザー広告を出稿していた。

抖音としては、罗氏の配信をきっかけに自社のライブコマースシステムの知名度を上げ、参加者・購入者を増やしたいというもくろみがあった。自分たちの持つメディアリソースを大量に振り分けることで、この話題、ひいては抖音自身をホットな話題にすることを狙ったのだ。

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