黒川検事長、「賭けマージャンで辞職」の衝撃度 問われる検察とメディアの「不透明な関係」

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黒川氏の定年延長や検察庁法改正案に含めた定年延長の際の特例措置などについて、安倍首相は「そもそも法務省が提案したことだ」と繰り返し、黒川氏との関係についても「2人で会ったこともない」と親密な関係を否定してきた。政府与党が目指す秋の臨時国会での法案成立も「(安倍首相は)意欲を示していない」(周辺)とされる。

これまで政府与党内でも「黒川氏をことさら重用してきたのは菅義偉官房長官」(自民幹部)との見方が多かった。このため、首相サイドには「今回の混乱は菅氏の責任」との声もある。2019年秋以来、ことあるごとに政界で取り沙汰されてきた「官邸にすきま風」との憶測を裏付けた格好でもある。

検察と新聞記者の不透明な関係

東京都の小池百合子知事が不要不急の外出自粛を呼びかけ、安倍首相も人との接触8割減を強く求めていた緊急事態宣言下で、黒川氏と新聞記者が麻雀卓を囲んでいたことで、検察と報道機関の不透明な関係も一気に表面化した。

黒川氏と大手新聞の記者らが未明まで麻雀に興じたうえ、黒川氏は産経新聞の用意したハイヤーで帰宅したとされる。それは「癒着以外の何物でもない」(司法関係者)のは明らかで、部屋に4人が密集して麻雀卓を囲むのは「3密」の典型だ。

さらに、刑法上は賭けが少額でも賭博罪に該当し、国家公務員の倫理規程にも抵触する可能性がある。当事者である新聞社の対応も含め、「新聞報道への国民の信頼を踏みにじる」(有識者)との批判は免れない。司法担当記者の間では「黒川氏の麻雀好きは昔から有名だった」(通信社記者)とされるが、本来の司法とメディアの緊張関係を無視するような双方の姿勢は、「国民の知る権利を奪いかねない事態」(政界関係者)とみえる。

21日朝刊の報道ぶりも「何やら及び腰で、切れ味の悪さが目立った」(有力大手紙OB)のは否定できない。当事者となった朝日新聞は「黒川検事長が辞意」と1面トップで大きく報じ、社会面で「本社社員も参加 おわびします」との見出しで反省のコメントを掲載した。

一方、産経新聞は3面に「黒川検事長賭けマージャン報道」とやや地味な報道ぶりで、「取材源秘匿は責務、不適切行為あれば対処」との見出しで編集局長の見解を載せた。読売、毎日はどちらも1面で報じたが、検察とメディアの関係について踏み込んだ社はなかった。

政府は21日に関西圏の緊急事態宣言解除と、首都圏と北海道の宣言継続を決めた。安倍首相はその際のインタビューで、黒川氏の辞職について「法務省の対応を了承した。首相として当然責任がある」と平静を装った。ただ、政界には今回の黒川氏の辞任劇による安倍政権への打撃が「今後の政府のコロナ対応にも悪影響を及ぼす」(自民長老)との不安も広がっている。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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