見直し迫られる、ドル高円安シナリオ 世界的なディスインフレ相場が進行

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4月9日、新興国経済の減速で先進国の物価が上がりにくくなっており、追加金融緩和や低金利環境への期待から、欧米の国債に資金が流入している。写真は2011年8月撮影(2014年 ロイター/Bernadett Szabo)

[東京 9日 ロイター] -ディスインフレ相場が世界的な規模で進行している。新興国経済の減速で先進国の物価が上がりにくくなっており、追加金融緩和や低金利環境への期待から、欧米の国債に資金が流入している。

ドル高期待は足元で大きく後退。低金利は株価にプラスだが、景気への不安が上値を押さえている。日本では追加緩和期待が弱まったが、「デフレの国」との認識が市場に残っており、地政学リスクなどが高まると逃避の円買いが向かいやすいという。

過去最低のイタリア金利

イタリア10年債利回りは4日に過去最低の3.186%を記録した。欧州金融危機がピークだった2011年には7%を超えたが、現在は当時の半分以下までに金利が低下した。スペイン10年債も8年ぶり低金利を付けるなど、ユーロ圏全体で金利が大きく低下している。

ユーロ圏全体で経常黒字となり、ファイナンス懸念が後退したというポジティブ材料はあるが、イタリアなどは高水準の公的債務と対外競争力の弱さなど構造的な問題を相変わらず抱える。一方、国際通貨基金(IMF)が8日発表した世界経済見通しでは、ユーロ圏は今年1.2%成長に加速する見通しで、景気面ではむしろ金利上昇の局面だ。

金利低下を促しているのは、物価の伸びが縮小するディスインフレ傾向と、それにともなうECB(欧州中央銀行)による金融緩和期待だ。3月のユーロ圏消費者物価指数(CPI)は前年比0.5%上昇と09年11月以来の低い伸び率となった。構造問題が圧迫し、景気回復は一時的になり、物価が上がりにくい状態が続いて、金融緩和も継続されるとの予想から国債がどんどん買われる構図になっている。

ただ、金利水準は年初来どころか過去最低のレベルであり、市場参加者の間でも金利の急低下には警戒感が強い。「デフレ局面特有の金融行動だ。欧州の銀行が民間への貸し出しを増やさずに、余剰マネーを国債に回している。かつての日本のようで、いい傾向とは言えない」と三菱東京UFJ銀行シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は指摘する。

欧州金融危機からの脱却を示すという意味で、これまで欧州では金利低下はいいニュースだった。しかし、今はディスインフレの懸念を示す悪い知らせになっている。

米国は低金利継続予想

金利が上がらないのは米国も同じだ。3月の米雇用統計で非農業部門雇用者数は市場予想をやや下回ったが、過去分が上方修正されており、堅調な米雇用の改善を示したとの認識が広まった。しかし、米10年債利回りは3%どころか、直近の上限である2.8%さえも上回ることができなかった。

米国でも金利を低位に押さえこんでいるのは、ディスインフレへの警戒感だ。2月の米CPI(エネルギー、食品除くコア)は前年比1.6%上昇。欧州ほどではないが、インフレ率は米連邦準備理事会(FRB)の目標を約2年下回り続けており、物価が上がらない状況が定着しつつある。FRBはテーパリング(量的緩和縮小)を続けているが、物価が上がらない状況が続けば、早期利上げは難しいと市場は読み、国債に資金を回している。

低インフレは経済全体にとって悪いことではなく、むしろ良いことだが、その背景が新興国経済の経済減速であれば話は別だ。年初に急落した新興国の株や通貨はリバウンドしているが、経済見通しが急に明るくなったわけではない。IMFは、新興国の2014年の成長率を前回の5.1%から4.9%に引き下げ、世界全体の見通しも0.1%ポイント下方修正した。

「米経済が緩やかながらも順調に回復するというのはほぼマーケットに織り込まれており、材料になりにくくなっている。これからの市場のカタリストは新興国経済の動向や、それにともなう世界的なディスインフレの行方になってきた」とシティグループ証券チーフエコノミストの村嶋帰一氏はみている。

「デフレの国」の印象ぬぐえぬ日本

ドル/円が下落しているのは、前日の黒田日銀総裁会見を受けて、日銀緩和期待が後退したこともある。ただ、こうした期待を抱いていた主体はイベントドリブン型ヘッジファンドなど一部の海外短期筋だ。追加緩和期待の後退だけで101円台の円安や日経平均の300円安を説明するのは難しい。

円高進行の背景には、年初にマーケットが予想していたほど、米国の金利が上がっていないことがあるという。「グローバルな投資家は目下、米景気回復や米金利上昇に伴う『ドル高シナリオ』の見直しを迫られている」と野村証券・金融市場調査部チーフ為替ストラテジストの池田雄之輔氏は指摘する。

3月米雇用統計では、雇用者数は改善したものの平均給与は伸びなかった。日本も増税分を含む物価の伸びに賃金はまったく追いついていない。賃金インフレ、もしくは需要主導の「良い物価上昇」は想定しにくく、超金融緩和で無理やり物価を押し上げている構図は長続きしないと市場は見ているようだ。「金利が上昇しないところに、マーケットの全体観が表れている」(米系証券)との指摘は多い。

また、円に関しては、リスク回避的な逃避需要も円高材料との見方もある。ウクライナ東部の複数の都市で、親ロシアの「分離派」が政府の建物を占拠したことで、再び警戒感が強まってきた。

日本では消費者物価が上昇し、デフレ脱却の方向にある。しかし「デフレの国」との市場の印象を払しょくするのは容易ではないようだ。

三井住友アセットマネジメント・シニアストラテジストの濱崎優氏は「貿易赤字などファンダメンタルズ的には円高は進みにくくなっているはず。それでもリスクオフ材料が浮上すると、逃避の円買いが進むのは、日本が依然として『デフレの国』であるとの認識が市場に根強いからだろう」と話している。

(伊賀大記 編集:北松克朗)

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