安倍首相が推しまくるアビガン「不都合な真実」 ヒトの病気に対する効果を示す研究は少数

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2月29日の記者会見で安倍氏は、日本では3つの治療法が試されているとしながらも、具体的な名前を出したのはアビガンだけだった。その翌週、菅義偉官房長官は記者団に対し、安倍氏と富士フイルム会長との関係は、首相のアビガンに対する見解とは「まったく関係がない」と述べた。

政府関係者は「(アビガンは)日本製の薬だから、できればそれを使おう」と考えているのではないかと、感染症の専門家である倭氏は話す。

富士フイルムの広報担当者は「首相や政権から優遇されたことは一度もない」とコメントした。

「極めて特殊な状況」

3月、アビガンが軽度から中程度のCOVID-19患者の回復を早めたことを示す論文を中国の2つの研究チームがオンラインで発表したことで、アビガンにはさらなる追い風が吹いた。

新型コロナウイルスの感染が広まった事実を初動で隠蔽したとして批判にさらされていた中国政府は、この研究結果を中国のウイルス対策の成功例として宣伝し始めた。が、論文は基本的な対照実験が行われていないとして、科学者から即座にこき下ろされる。査読を受けていなかった両論文は修正され、結論は一段と不確かになった。

にもかかわらず、中国は新型コロナウイルスに対するアビガンの使用をすぐさま承認した。日本国外でアビガンの使用が認められたのは、これが初めてだ。

とはいえ、アビガンは日本でも2014年に条件付きで使用が許可されたにすぎない。医療監視団体は、これを「極めて特殊な状況」と呼んでいる。

規制当局の評価では、アビガンは季節性インフルエンザに対し「有効性が示されていない」ため、インフルエンザへの使用は承認できないとされた。ただし、既存の抗ウイルス剤が有効でないと判明した「危機的」状況においてのみ、新型または再興型インフルエンザに対する使用を認めている。

富士フイルムの広報担当者は、承認プロセスは「しっかりしており、厳格だった」と述べた。

一方、製薬業界を監視する非営利の民間組織「薬害オンブズパースン会議」は5月初旬公表の報告書で、この承認手続きを「極めて異例」と表現している。同会議の水口(みなぐち)真寿美事務局長はこう語る。「もともとインフルエンザ薬として備蓄されたこともありえないし、今こういう状況になって、科学的な根拠が揃ってないのに、どんどん使え、なんていうのはありえないですよ」。

【2020年5月11日12時19分追記】薬害オンブズパーソン会議と水口真寿美事務局長の上記コメント表記について翻訳に正確を期すために初出時から見直しました。

(執筆:Ben Dooley記者)

(C)2020 The New York Times News Services

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