安倍首相が推しまくるアビガン「不都合な真実」 ヒトの病気に対する効果を示す研究は少数

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しかし深刻な問題も抱えている。動物実験で先天異常(胎児に奇形)が出たことで、日本はこの薬の使用と製造に異例ともいえる厳しい規制を課した。新型コロナウイルスが発生する以前、アビガンは臨床試験やエボラ出血熱への対処に限りヒトに投与されていた。それでも倭氏によれば、この薬がヒトの病気の治療に効果的であるという決定的な証拠は得られなかった。一般的なインフルエンザに対する効果さえ確かではないという。

けいゆう病院(横浜市)で感染症を専門とする菅谷憲夫医師は、もしアビガンが新型コロナウイルスに有効だとしたら、病気の初期段階で役立つ可能性が高いと話す。

2016年に政府の特別委員会で菅谷氏は、この薬は評価が済んでおらず、備蓄するべきではないと訴えていた。しかし今では見方を軟化させ、広範囲の検査と組み合わせれば予防薬として役立つ可能性があると述べている。

疑われる富士フイルムとの「お友達」関係

だが、このように備蓄に反対する声があったにもかかわらず、当時の関係者はアビガンを200万人分購入することを決定した。現在、新型コロナウイルスの患者に投与されているのは、この備蓄分だ。政府のデータによると、日本ではこれまでに1100の医療機関が約2200人の新型コロナウイルス患者にアビガンを投与しており、1000人以上の患者がこの薬を待っているという。

これら機関の多くは、無作為抽出による二重盲検やプラセボの使用といった厳密な対照実験を行っていない。アビガンを投与している医療機関は、先天異常が問題になる可能性が低い高齢者では、リスクに対し潜在的なメリットが特に大きくなると主張している。

新型コロナウイルス治療薬は現在、富士フイルムなどによって正式な臨床試験が進められている段階だが、安倍氏は認可に前のめりだ。同氏はアビガンの使用のさらなる拡大を求め、病院には希望する患者全員に処方するよう促し、患者にはアビガンの名前を出して自ら処方を願い出るよう呼びかけている。

安倍氏は4日、承認プロセスはこれまでとは「異なる形」になる可能性が高いと述べた。開発者が実施する従来の臨床試験に依拠するのではなく、薬は有効だという判断を専門家が下せば承認が出るというのである。

安倍氏はなぜここまで強くアビガンを推すのだろうか。その理由は定かではないが、日本の一部メディアは安倍氏と富士フイルムの古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)との親密な関係に触れている。首相の動静記録によると、2人は頻繁にゴルフや食事を共にしており、最後に会ったのは1月17日だった。

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