コロナ対策から考える「優れた戦略」「悪い戦略」 タイミングの問題を解決する4つの戦略理論

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この「待ち構える」ことを最も得意とした、歴史上最強の戦略家はなんといっても、ユリウス・カエサルでしょう。紀元前100年生まれの彼は、ローマの将軍として、ほとんどあらゆる戦争に勝った稀有な人物です。彼は「機会活用戦略」「行動力が常に知識を上回る」など、勝者に不可欠の大切な資質を持っていました。

この「機会活用戦略」で重要なポイントは、ただ早く動けばいいわけではないことです。変化の最初の段階から、その変化がやがて辿りつく場所を考えて、優位なポジションまで最速で移動することこそ、ファーストムーバ―の真骨頂なのです。

ところが、現代社会ではこの「ファーストムーバ―」のメリットを否定するような戦略が大きな存在感を持ってきています。

フランスの英雄ナポレオンは、カエサルとは少し異なる戦略を持ちました。1769年生まれの彼は、砲兵から身を起こしてフランスの皇帝にまで上り詰めた人物ですが、動きの中にチャンスを見つけることを得意としていました。

若き頃、イタリア方面軍の司令官となった彼は、もっと貧弱な装備だった自軍とともに移動を続け、局所的に「自軍のほうが数が多くなる場所、ほぼ同等の戦力になる場所」を変化の中で探して戦ったのです。ナポレオン軍が移動を続けると、敵もそれにつれてさまざまな変化をしていきます。布陣を変えたり、別の方面へ移動したりするからです。その動的な状態の中に、ナポレオンはチャンスを発見していました。

テレワークも含めて、コロナウィルスの騒動で、さまざまな変化を私たちは強いられています。その変化にまず飛び込み、変化の中を行軍しながら「変化が生み出したチャンス」に殺到する。

テレワークを例にとれば、それを導入したことでの新たなメリット、デメリットや不便な点が見つかるはず。ナポレオン流ならば、動いたことによって見える風景が変わり、その中で自社にもっとも有利なチャンスを捉えることが勝利への道なのです。

「ラストムーバーになれ」と指摘した世界的な投資家

カエサルやナポレオンとは、違った視点でタイミングを見る投資家がいます。PayPal創業者で世界的なベンチャー投資家のピーター・ティールです。

彼は、あくまでも「先手を打つのは手段であって目的ではない」としています。あわてて参入しても、あとからきた競争相手に簡単に押しのけられてしまうようなポジションしか占めることができないなら、それは優位点ではありえないからです。

彼は、著書の中で「特定の市場でいちばん最後に大きく発展して、その後何年、何十年と独占利益を享受する方がいい」と述べています。ティールはまた、チェスのグランド・マスターであるホセ・カプブランカの言葉も紹介しています。「勝ちたければ「何よりも先に終盤を学べ」。

コロナウィルスの拡大と騒動は、社会を大きな混乱に陥れています。一方で、この混乱が生み出した社会習慣や、新しい消費行動の中には、継続的なものとなる可能性を秘めたものがあるはずです。

先日、家電大手のシャープが社会貢献としてマスクを生産すると発表、販売開始して話題となりました。

家電メーカーがマスクを売るなど、驚くべきことですが、コロナウィルスの影響で、医療施設や接客業、ある種の公共施設でのマスク着用が習慣となるなら、定期納入などの継続的なビジネスニーズはさらに伸びていくかもしれません。

マスク転売で儲けた個人とは違い、ある意味で「ラストムーバ―」となるシャープのマスク関連ビジネスは、(社会貢献事業として始められても)、先行者とは違う戦略として、継続的な成功を収める可能性があるのです(除菌ジェルや消毒も、どのような商品形態がなら継続的な商品となるかが問われるでしょう)。

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