中村紀洋が、40歳で到達した「仕事観」 楽しいだけで仕事はできない

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気持ちの余裕ができた今、見る夢は?

では、野球を続けるモチベーションは何なのだろうか。そのひとつが、代名詞とも言えるホームランだ。

「ホームランを打ったときの手の感触、球場の雰囲気。それが好きなのでしょうね。言葉に表すと、虜になった。昨年、山本昌(中日)さんから打った400号ホームランは、あのシーズンではベストのスイングをできたと思います。ああいう戦いをもっとしたいなというのはありますね。打ちたいという気持ちではなく、打つんだという気持ちでやっている結果だと思いますけど、実際に打つとなると、なかなか難しいと思いますよ。どうすればできるようになる? いろんなものを味わえば、いいんちゃうかな(笑)」

若かりし頃の中村は、自分のことばかり考えていたという。キャリアを重ねるにつれ、そのスタンスは大きく変わっていく。

「昔はチームのことなんか、考えていなかった。そんな余裕がない。余裕ができたから、チームが勝ちたい、みんなと喜びたいと思うようになりました」

2軍にいる現在、個人的な目標は立てられない状況だが、それでも自身のコンディションづくりを黙々と行っている。「いつ、何時、オファーがかかったときに、状態が出来上がっていなければ、アピールもできない」からだ。

そんな中村には、横浜スタジアムで見てみたい光景がある。

「いちばん思うのは、低迷しているベイスターズなのにもかかわらず、あれだけたくさんのファンが球場に来てくれる。『勝ったら、どないになるのかな?』というのを見てみたい。だから、勝つしかないんですよね。ベイスターズが優勝でも争うチームになった場合、お客さんがどれくらい入るのか。そうやって見ていて、楽しいですよね」

今季のDeNA はバルディリスに加え、投手陣では久保康友と高橋尚成を補強し、開幕前には評論家から高い前評判を得た。巨人の壁は高いものの、優勝を争えるチャンスは少なからずある。

「何とか、与えられた仕事を、きっちりやっていきたいと思います。ファンがいるかぎり、勝ちたい。この1本で勝てるとか、ファンが期待するところで打てるかどうか、それだけですね。個人的な成績うんぬんじゃなくて、チームが勝たないと、やっている意味がないので」

ビジネスキャリアを重ねていくにつれ、考え方は変わっていくものだ。それは人の特性であり、環境に順応するためでもある。

今季開幕を2軍で迎えた中村は、屈辱感を強く持っているはずだ。だが、シーズン最後に美酒を味わうため、ある部分は割り切って、自分のできる仕事を黙々と行っている。

(=敬称略)

中島 大輔 スポーツライター

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なかじま だいすけ / Daisuke Nakajima

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。2005年夏、セルティックに移籍した中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた「野球消滅」。「中南米野球はなぜ強いのか」(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。NewsPicksのスポーツ記事を担当。文春野球で西武の監督代行を務める。

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