接触8割減を願う人々を失望させる「人の動き」 若者、老人が街から消えても通勤電車は混雑

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渋谷から若者の姿が消え、巣鴨商店街を歩く高齢者がいなくなる中、改めて問題となってくるのは「通勤のための外出」です。満員電車自体が「密閉空間」「密集場所」であり、場合によっては話や発声をすることで「密接場面」が加わり、「3密」に近い条件になりうることは、以前からたびたび指摘されています。

これまでもテレワークは推奨されてきたものの、実施率はそんなには高まっていませんでした。直近でこそ都心のオフィス街で人は減ってきてはいるようですが、朝夕といったラッシュアワーにおける通勤電車の混雑ぶりは解消されていません。とてもじゃないけど8割減にはほど遠く、感染爆発(オーバーシュート)の危険にさらされる空間です。

テレワーク整わず、ハンコ文化も根強い職場

Twitterでも「土日は外出自粛も……月曜日の満員電車の風景が話題」「なにが3密を避けろだバカと電車に乗ってる人はみんな思ってるはず」などの投稿に、共感が集まるほど。

「ついこの前までは若者たちが街に繰り出すのを見て、おいおいちょっとは考えろよ!なんて思っていたけど……。でも風邪くらいで休むなよって言ってたのも自分たち以上の世代。在宅なんて言われてもそんな簡単には……」と、とある中小企業に勤めるCさんは嘆きます。Cさんのオフィスではテレワーク環境が整っていないのです。

在宅勤務への切り替えが困難な労働者が多数存在するのは、こういったIT環境の未整備といったケースだけではありません。前時代的な働き方への固執や、アナログな商習慣との折り合いをつけることの難しさが大きな要因なのです。いまだに出社にこだわる経営者ももちろんいます。極めつけは捺印問題。ある調査では、64.2%の人が「紙書類の確認や捺印などでやむなく出社した経験がある」と回答しています。印鑑文化が根強い日本においては、管理職が書類にハンコを押すためだけに、感染リスクをおしてまで出社を余儀なくされているのです。

こんな状況では通勤人口は容易には減らないでしょう。緊急事態宣言が出されたところで、古い働き方に縛られ、自らは働き方を選べない立場にいる人々がいます。結局のところ、若者でも高齢者でもなく、日本型雇用が沁みついた昭和世代のサラリーマンが、いちばん最後までステイホームできない。まったく笑えない話です。

平賀 充記 ツナグ働き方研究所 所長

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ひらが あつのり / Atsunori Hiraga

人材開発コンサルタント/組織コミュニケーション研究家/若者キャリア研究家。1963年長崎県生まれ。同志社大学卒業。1988年リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。主要求人媒体の全国統括編集長を経て、2012年リクルートジョブズのメディアプロデュース統括部門担当執行役員に就任。2014年ツナグ・ソリューションズ取締役。2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任。著書に『非正規って言うな!』(クロスメディア・マーケティング)『神採用メソッド』(かんき出版)『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』(アスコム)がある。
ツナグ働き方研究所オフィシャルサイト「ツナケン!」:https://tsuna-ken.com/

 

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