コロナが外交の世界にもたらす深刻な帰結 外交官の往来停止で広がる国家間の乖離

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世界的な危機を前にしたとき、外交はあまりにも無力である。そして、アメリカのトランプ大統領が振りかざし、非難を浴びてきた「自国中心主義」が勢いを増しているのだ。

今、世界の外交はほぼ完全に停止状態となっている。首脳はもちろん、外交官らの往来も完全にストップし、さまざまなレベルの協議もほとんど行われていない。各国の外務当局は、国外に取り残された自国民の帰国手段の確保などに追われ、同時に感染拡大を防ぐための国境管理強化や医療資源などの輸出規制を進めている。

感染防止のため、他者との距離を確保する「ソーシャル・ディスタンス」が叫ばれているが、同じタイミングで残念なことに、国家同士の乖離が広がっているのである。

明らかになったテレビ会議の限界

それでも3月にはG20首脳会議やG7外相会議をはじめ、いくつかの国際会議がテレビ会談という形で行われた。3月26日のG20首脳会議は各首脳が順番に発言したあと、「共同戦線を張ろう」という趣旨の用意されていた首脳声明が発表され、130分間で終了した。

関係者によると、「参加した首脳の現地時間は時差があってバラバラ。早朝の国もあれば深夜の国もある。そのため会議は予定外の発言もなく淡々と進められた。その中で、トランプ大統領が最初から最後まで着席していたことが目立っていた」という。

そのことに大した意味はなかったようで、トランプ大統領はその後、マスクなどの輸出を禁止する命令書に署名している。

また、この会議ではトルコのエルドアン首相が、何の脈絡もなく「難民問題は大変だ」と発言し、ヨーロッパ各国の首脳を驚かせたという。中東からの数百万人もの難民を抱えているトルコは、難民受け入れを拒むヨーロッパ各国と対立している。ヨーロッパがコロナウイルスの対応に追われているこのタイミングで、トルコが難民をヨーロッパに向けて解き放てば、混乱に歯止めがかからなくなることは必至である。エルドアン首相の発言は、ヨーロッパに対する明確な脅しだったのだ。

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