「東京志向」だけでない、糸魚川の新幹線活用法 金沢・富山への新幹線通学が定着してきた

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市建設課によると、2016~19年度で延べ52件の利用があった。件数は最多の富山が21件、県境を2つ越えた金沢が18件、長野6件、上越妙高3件など。大学卒業後、地元に就職した若者も何人かいるといい、ライフスタイルにも変化が及んだ格好だ。

市は2020年度から貸与に切り替える方針だったが、引き続き、助成を継続することになった。やや形が変わり、定期券購入費の2分の1、月額最大4万円を助成する一方、最終的に地元に就職しなかった場合は助成額の半額を返還してもらう仕組みだ。

また、糸魚川市内には、えちごトキめき鉄道の新駅が建設される。糸魚川駅と東側の梶屋敷駅の間に、「押上新駅」(仮称)が2021年3月、開業予定だ。近くに県立糸魚川高校、市の基幹病院・糸魚川総合病院、県の糸魚川地域振興局などが立地し、需要を見込めるという。

「増えた選択肢」どう生かすか

「新幹線ができるとストロー効果で若者が出て行く」。そんな言葉を整備新幹線沿線で何度となく耳にしてきた。実際、北陸新幹線沿線では若者の東京志向が強まっている、という情報にも接した。しかし、別の選択肢も生まれ得ることを、糸魚川市の事例は示している。「人口減少対策としての新幹線活用」を明確に前面に押し出した自治体は、それほど多くない。

糸魚川市中心部。JAにも「ひすい」の文字が=2019年9月(筆者撮影)

折しも、新型コロナウイルスの影響が全世界を覆い、産業や経済、人の移動が大きな制約と大打撃を受けている。この歴史的な試練によって、近い将来、観光や交通にとどまらず、人々のライフスタイルや人生観、幸福観にも地滑り的な変質が生じる公算が大きい。

将来が不透明な時代や環境では、選択肢の多さは大きな武器となる。新幹線という新たな選択肢は市民や暮らしにどんな未来をもたらすのだろう。東西日本の境界に位置し、太古のヒスイに見守られた糸魚川は、それをじっくり考えるにはふさわしい街に感じられる。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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