コロナ対応のテレワークに「格差」が生じている 7割以上が「案内なし」、企業・職業・個人間で差

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最後に、「個人間格差」だ。テレワークによって「パフォーマンスの格差」がクローズアップされる恐れがある。多くの日本の企業で採用されているのは、総合的な能力評価とパフォーマンス評価という「両面評価」の仕組みだ。この仕組みは、日々の業務プロセスの中に見えるその人の「やる気」や「貢献意識」といった総合的要素を評価対象に含む。

この評価制度に慣れ親しんできた日本の従業員は「成果はともかく、毎日頑張った分も評価してほしい」というプロセス面への意識が強い。これが、20年ほど前に起こった「成果主義」の運動が頓挫した背景にもあった。
しかし、テレワークが主な働き方になると、オフィスにいないことによって「働いているプロセス」が可視化されにくく、当然ながら「パフォーマンス」に偏った評価になる。これは、評価制度としては片翼を失った状態で、上司も部下も共に困惑し、マネジメントが機能不全に陥る。急ごしらえテレワークは、意図しない形で「成果原理主義」を生み出しつつある。

ITリテラシーがパフォーマンスに直結

またこの個人間のパフォーマンス格差には、ITリテラシーの差も絡む。例えばチャットやメールの返信が早い人と遅い人、オンライン会議で発言する人としない人など、これまではオフィスの中で誤魔化されてきた能力の格差が、テレワークでは如実に表れる。機器や通信ツールを揃えたとしても、こうしたリテラシーが急につくわけではない。新たなツールへの順応能力や学習姿勢の差も顕著に表れ、それが「パフォーマンスの格差」に直結しはじめる。

4月以降こうした問題にどのように対応するべきだろうか。まずは、ITリテラシー格差においては、今こそ従業員全体のスキルのベースアップを図るべきだ。大規模な遠隔会議をするたびに、「映像がつながらない」「聞こえない」などの(多くは個人側に原因がある)トラブルが発生する状況は好ましくない。

チャットツールへの慣れや文字でのコミュニケーションの得意不得意など、これまで「特別なときだけ」に求められていたITリテラシーが、この緊急時には、「毎日の」業務を阻害する要因として表れてくる。これらを職場全体で底上げしていく育成機会や、ノウハウの見える化と共有が、今こそ求められる。それらはウイルス収束後も大きな資産になるはずであり、個人も企業も、一定のコストを割くべきタイミングだろう。

またより大きい流れとして、職務=ジョブと働き方との紐付きを強化する方向がある。それぞれの従業員に割り当てられた職務をできるだけ明確化し、会社が求める成果基準をより強固に紐付けていく方向だ。そうすれば、プロセスを可視化する必要性そのものが減る。一方で計画的なジョブ・アサインも必須になるが、パフォーマンスの差はよりシンプルな指標で測定できる。

等級制度や評価制度の改定など、人事制度そのものの変更には数年かかるため、企業もしばらくは表面的な対策に追われていることになる。だが、この新型コロナウイルスとの戦いが長期化すればするほど、そうした雇用のあり方の構造的な変化についても議論されてくるはずだ。そうした意味でも、日本の働き方はまさに岐路に立っている。

小林 祐児 パーソル総合研究所 上席主任研究員

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こばやし ゆうじ / Yuji Kobayashi

上智大学大学院総合人間科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。NHK 放送文化研究所に勤務後、マーケティングリサーチ・ファームを経てパーソル総合研究所に入社。専門は理論社会学・人的資源管理論・社会調査論。テレビ・ラジオ出演・各種新聞などへの寄稿多数。主要著作に『残業学──明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』(光文社、共著)『会社人生を後悔しない 40代からの仕事術』(ダイヤモンド社、共著)など。

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