「相鉄線ウェブムービー」が大成功した深い理由 「役に立つ15秒のCM」よりなぜ響いたのか

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山口:そのとおりですね。その点、「役に立つ」なら15秒でも伝えられる。でも、「意味がある」は極論すると本1冊ぐらいの内容だから、15秒に込めるのはとても難しいんです。最低でも30秒か1分ないと「意味がある」CMとして成立しない。

1980年代に杉山さんが手がけたサントリーローヤルや、佐藤さんが手がけた「カローラII」も30秒でした。天才と言われるクリエイターの作品は、ほぼ30秒のCMです。

CMが15秒フォーマットになって意味を伝えられなくなったように、新聞や雑誌の広告もフォーマットが小さくなっていて「役に立つ」情報しか伝えられなくなっています。日本の企業が生き残っていくためには「役に立つ」から「意味がある」にシフトしなきゃいけないのに、この齟齬は困ったものだと思いますね。

水野:僕は佐藤雅彦さんがすごく好きなんですが、「カローラII」のCMは、カローラIIの性能や機能はさほど強調していないように見えます。でも、「カローラIIを買ってカローラIIに乗ると、こんな日々が訪れるかもしれない」と思わせてくれる。

山口:あれはまさに世界観を伝えるCMです。

いい広告はブランドをつくれる

水野:「房総バケーション」というJR東日本のCMも、小泉今日子さんが「潮風が呼んでいる〜」って歌って、「房総バケーション」って言うだけ。それでものんびり電車に乗って房総に行きたくなる。その世界観の中に入りたくなる。世界観をプレゼンテーションすることで、行きたいと思わせてしまうという。

山口:使っていた写真も特別なものじゃない。子どもの頃の家族旅行の記憶を呼び覚ますような、ほのぼのしたノスタルジーがありました。それはまさに房総という場所の意味づけだし、世界観です。

佐藤雅彦さんが一時期から「トーン」って言っていたのがたぶんそれだと思います。ラグジュアリーの物差しで比べたら房総はハワイに全然勝てないけれど、「本当に懐かしい」「夏休みってこうだよね」っていう感覚が、見ている人の心の中に自分ごととしてよみがえるんです。たとえその人が玄界灘で育っていてもですよ(笑)。

カローラIIも同じで、音楽はジェフ・ベックじゃなく、あくまでオザケン(笑)。小沢健二さんの力が抜けた自然なたたずまいが、「自動車の性能は成熟したし、もっとラグジュアリーにしても意味がない」という世界観を表しています。

水野:いい広告は、ブランドをつくれるんですよね。ブランディングは世界観をつくっていく仕事であり、いい広告はその一翼を担うことができる。

Appleの「Think Different.」なんかもそうですよね。ブランド力のある企業と意味を重要視していく企業は、ニアリーイコールで結べると思います。

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