原油相場の急落覚悟で動いたサウジの執念 日本エネルギー経済研究所の小山堅氏に聞く

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また、サウジには自国のみが減産して原油価格を下支えることは絶対避けたいという考えがある。かつて、サウジは1980年代台前半に5年間の減産を独自に行ったことがある。

その際、サウジの原油生産量は日量約200~300万バレルにまで激減した。このトラウマをサウジの高官たちは忘れていない。あくまでも協調減産という形に持っていきたいというのがサウジの考えだろう。

確かにサウジが所有する油田の生産コストは安い。だが、財政均衡価格は1バレル80ドル程度ともいわれる。多額の軍事支出やエネルギー等への補助金等に巨額の支出が必要で、そのため財政均衡のための原油価格は高くなる。

人口増加の中でとくに若年層の雇用確保問題もある。ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が進める石油依存経済からの脱却は重要だ。産業の多角化を進めなければ増加する若年層に見合うだけの雇用を創出できない。しかし産業多様化のためには多額の資金が必要で、その原資は当面は石油産業からの収入ということになる。

次のOPECプラスまでに動きが

――この原油価格下落は世界最大の産油国となったアメリカにどう影響しますか。

もちろん、アメリカのシェールオイル産業にとってはマイナスだ。エネルギー産業への投資が縮小する懸念もある。

エネルギー産業界への親和性が高い共和党のトランプ大統領にとっても問題だ。現在の低い油価がこのままでよいとは思っていないだろう。アメリカとサウジは国際石油市場において重要な国だ。

世界経済や国際金融市場の安定化が重要性を増す現在、サウジのサルマーン皇太子に対して影響力を持つトランプ大統領の動向には注目している。

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――サウジ、ロシア、それぞれの動きはどう予想されますか。

新型コロナウイルスの影響で世界が深刻な景気減速に見舞われている。これは産油国にとっても深刻だ。6月上旬にOPECプラスが開かれるが、それまで手をこまねいているということはない。水面下でさまざまな議論・交渉が行われるだろう。

ロシアが譲歩するか否かも注目だ。ロシア経済は石油・ガス輸出依存型経済だ。主な輸出先である欧州経済が新型コロナウイルスの影響で甚大な影響を被れば、ロシアへの影響は深刻だ。

確かにロシアには低油価に対する一定の耐性はある。だが、その一方で経済制裁下にあり、サウジはそうではない。サウジは新規国債発行などの手段で資金調達を行うこともできる。一部で言われているような、「サウジがすぐに音をあげる」とはならないかもしれない。

大塚 隆史 東洋経済 記者

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おおつか たかふみ / Takafumi Otsuka

広島出身。エネルギー系業界紙で九州の食と酒を堪能後、2018年1月に東洋経済新報社入社。石油企業や商社、外食業界などを担当。現在は会社四季報オンライン編集部に所属。エネルギー、「ビジネスと人権」の取材は継続して行っている。好きなお酒は田中六五、鍋島。

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