FRBの金融緩和にみるコロナショックの深刻度 「ゼロ金利」と「量的緩和」に追い込まれたFRB

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金融市場もひっ迫の度を強め、ほとんどの借り手の調達コストが上昇した。NYダウが高値から約3割下落するなど株式市場は世界的に暴落し、市場の変動度合いが急激に高まっている。

金融市場に対する投資家の恐怖感や株の損失穴埋めなどが相まって現金に対するニーズが高まっている。金融市場の中で最も重要であるアメリカ国債市場やMBS市場までもが現金化に伴う売り圧力を受け、金利が上昇(価格は低下)する事態となっていた。

ゴールドマン・サックスは15日、アメリカの実質GDP成長率予想を2020年1~3月期が0%、4~6月期はマイナス5%へ下方修正した。2020年通年の成長率も従来の1.2%から0.4%へ引き下げた。同社のエコノミストは「ウイルスに対する恐怖心は、旅行や娯楽、外食など消費者や企業の支出削減につながる。サプライチェーンの断絶と最近の金融市場のタイト化も成長に打撃を与える」と指摘する。この予想の前提は5月以降に経済活動が回復し、2020年後半には力強い成長に復帰するというシナリオだ。感染終息が遅れれば、さらなる下方修正もありうる。

金融緩和はコロナの根本的解決ならず

金融市場における信用不安という点で特に注目を集めているのが、アメリカのエネルギー業界のハイイールド債だ。原油価格が急落したのを受け、エネルギー業界が発行した社債のスプレッド(国債に対する金利の上乗せ幅)が急拡大している(価格は下落)。ハイイールド市場平均と比べても拡大幅は大きく、レバレッジドローンの価格も急落している。

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WTI原油先物価格が1バレル30ドル台前半に沈み、コスト競争力の弱いエネルギー関連企業は採算割れとなり、収益の悪化が予想される。原油価格の低迷が長期化すれば、2015年~2016年当時と同様、再びデフォルトが続出する恐れがある。ハイイールド市場全体の投資マインド悪化に拍車をかける可能性もあり、注意が必要だ。

ゼロ金利政策の導入とQE復活にもかかわらず、16日の取引開始前のダウ先物価格は約1000ドル(4.5%)の下げとなっており、市場の不安感は払拭できていない。「今回のコロナ危機がそもそも金融の問題ではなく、公衆衛生上の問題」(みずほ総合研究所の小野氏)であり、感染終息のメドが立たなければ、いくら金融緩和をしても根本的な問題解決にはならないからだ。

また、「今回の緩和策によってFRBは政策手段を使い尽くした」(市場筋)との指摘も多い。日銀やECBのようなマイナス金利政策導入も取りざたされるが、アメリカではMMFが広く普及し、マイナス金利政策を導入すると混乱が広がりかねない。FRBが社債や株式を購入するには法改正が必要とみられ、FRBの打ち手は限られている。

つまり、「バズーカ砲」とも称された今回のアメリカの財政・金融政策や主要中銀の協調の政策パッケージに対し、市場は「効果薄」との烙印を押した可能性がある。今後も対症療法によってできるだけ景気や金融への悪影響を抑えながら、感染終息のタイミングを待つしか手がない。

それほどに今回の危機は対処が困難なものであり、現代人が経験したことのない未曾有の脅威といえる。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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