型にはまった人はアートの本質をわかってない 常識を破り、従来とは違う価値観を生み出す

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芸事に「守・破・離」という言葉がありますが、この言葉もそのことを教えてくれます。芸は「守」から始まります。画家がまずはみっちりデッサンをするように、セオリーを勉強したりお手本にしたりすること(=守)は無駄ではありません。

しかし、それはあくまでその後のためのステップです。お手本に倣えば倣うほど、そこには収まらない自分のいびつさや違和感に気づく。それを繰り返す中でいずれそのお手本を「破」って自分をみつけ、ほかでもない自分らしいあり方になれるのが「離」です。

「守・破・離」とは「自分」に出会うプロセスだといえるかもしれません。ここで重要なことは、「守」=型や常識は大事だけれど、それはあくまで「自分に気づくための手段」であり目的ではない、ということです。

アートから学ぶこと

アートシンキングについて講演すると、必ずといっていいほど聞かれる質問があります。

1つ目は「アートがビジネスのヒントをくれるのか?」というもの。

これはノーであり、イエスです。アートを見て何かビジネスアイデアを思いつく、ということはあまりないでしょう。その意味でアートがビジネスに直接役立つわけではありません。

アートシンキングで重要なのは、今回のようにアートの創造プロセスを追体験することです。絵の作者や年代を暗記したり、教養として知ったりするのではなく、アーティストがどんな時代や環境の中で、作品を「なぜそのようにつくったのか」、そこに想像力を働かせ、アーティストの視点から創造のプロセスを追体験するのです。

そうすることで世界が変わる感覚を味わい、イノベーションを実感し、常識を打ち破る勇気をもらえるでしょう。

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アングルのような過去のお手本に倣った「マトモ」な絵になってはいないでしょうか。『ダンス』のように生き生きと踊っているでしょうか。

次によく聞かれる質問に「アートシンキングでつくった事業はうまくいくのか?」というものがあります。僕はこれも的外れな質問だと思っています。そもそも「うまくいく」とはなんでしょうか? 多くのユーザーに使われることでしょうか? 利益が出ることでしょうか?

アートが教えてくれるもう1つは、成功を評価する絶対的な価値軸すらない、ということです。「正統で美しいものは価値が高い」という価値観が過去のものになったように、利益や規模もあくまで現時点の価値観にすぎません。

真のイノベーションは過去の価値観から見ると一見失敗に見えるかもしれませんが、だからこそイノベーションであり、新しい価値観を生み出せるのです。

価値観そのものを疑い、自分起点で新しい価値観を生んでいく。アートに学ぶ、イノベーションのつくり方とは、そのような動的なあり方を学ぶことではないでしょうか。

若宮 和男 起業家(uni'que Founder/CEO)、アート思考キュレーター、ランサーズタレント社員、一級建築士

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わかみや かずお / Kazuo Wakamiya

建築士としてキャリアをスタート。その後東京大学にてアート研究者となる。2006年、IT業界に転身。NTTドコモ、DeNAにて複数の新規事業を立ち上げる。2017年、女性主体の事業をつくるスタートアップとして『uni'que』を創業。「全員複業」という新しい形で事業を成長させ、2019年には女性起業家輩出に特化したインキュベーション事業『Your』を立ち上げるなど、新規事業を多数創出している。資生堂をはじめ数々の企業内新規事業の外部ブレーンを務める。アート思考の第一人者として講演やワークショップを通じ社会にアートを根付かせる活動も行う。著書に
『ぐんぐん正解がわからなくなる! アート思考ドリル』(実業之日本社)などがある。

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