日本のヤンキー化は小泉政権から? 精神科医・斎藤環×歴史学者・與那覇潤(1)

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與那覇:たしかに小泉さんって、全盛期にも孤独で「ぼっち飯上等」な雰囲気は、むしろおたくっぽいですね。森喜朗さんみたいな「根回し上等」な人のほうがヤンキーだということですか?

斎藤:典型的ですね。もともと田中角栄が首相になった瞬間にヤンキーカルチャーのマジョリティ化は決定したも同然といえます。彼の言動を「ムラ社会的」と批判するのは簡単ですが、実は的外れでしょう。「列島改造論」の主張は「維新」と同じで、保守のベクトルをより徹底するための変革ですね。構造を温存すべく、表層をどんどん取り替えていく。まさにそこがヤンキー的です。こういう反知性主義的な首相が、庶民の圧倒的人気を得てしまったわけで、森さんなんかも完全にその系譜にいるわけですから。

與那覇:戦後政治史では「官僚派と党人派」という言い方をよくしますが、これって実は「インテリ派とヤンキー派」だったのかなという気がします。というか党人派のルーツのひとつは戦前に院外団と呼ばれた、代議士がボディーガード兼便利屋さんとして腕っ節の強い子分を囲っておいたグループですから、リアルヤンキーですね。最近だと、陸山会事件の際に報じられた小沢一郎さんと周囲の関係が、それに近いでしょうか。

その小沢さんが松下政経塾のような党外のインテリ派と組んで、1993年に細川連立政権、2009年には民主党政権を作ったけど、13年に結局、自民党政権が衆参のねじれも解消して「日本を、取り戻した」。この政治改革の20年間は、おたく系知識人がなんとかインテリ的な方向へ日本を引っぱろうとした期間でもあったと思うのですが、最後にベタな自民党が帰ってきたときに、ちょうど社会評論も“おたくに注目すれば日本がわかる”から“ヤンキーに注目すれば日本がわかる”に変わっていたというのが示唆的です。

斎藤:そうなんですよね。おたくって自己分析が好きで語りたがりだから。メディア上では元気に見えますけど、やっぱりマイノリティなんですよ。ベタなマーケティングの論理でいえば、おたくにウケるものをつくっても10万部がせいぜいなのに、ヤンキーにウケれば100万部はいくというのがはっきりしました。そういった意味では、ヤンキーは一度消えかけても何度でも帰ってくるという感じがしないでもない。

與那覇:丸山眞男風にいえば、日本の“執拗低音”は実は横浜銀蠅だったと(笑)。

(注 横浜銀蝿は八○年代に活躍したロックバンド。大ヒットとなった『ツッパリHigh School Rock'n Roll』など、不良をパロディ化した「フェイクとしての不良」を演じ、人気を博した。コラムニストの故・ナンシー関は、その流行の中に日本人の「ヤンキー性」への欲望を見出し、X JAPANや工藤静香を例に、〈世の中には、”銀蠅的なもの”に対する需要が、常に一定してあり、その一定量は驚くほど多い〉と論じた。)

斎藤:本来はとんでもないことですが、とりあえずその部分は認識しましょうというところはありますよね。それを受け入れて、そこからどうするかは個人個人の判断ですけど。

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