STAPだけではない 科学「成果偽装」の病根 特殊事例ではなく構造的な問題でもある

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写真:ロイター/アフロ

STAP細胞をめぐる騒動は、なお混迷を深めている。論文の執筆責任者である理化学研究所の小保方晴子氏に、捏造の意図はあったのか。STAP細胞は存在するのか。理研の中間報告発表でもグレーなまま、疑いの目は当初のメディア対応にも向けられている。

広報の過剰な演出

1月28日の発表時に公開され、強烈な印象を残したピンクや黄色の研究室、そして小保方氏のトレードマークとなった「かっぽう着」。これらは広報チームを含めて1カ月前から用意した演出だったのではないか。一部の新聞がこう報じたことに対し、理研広報室は「広報として壁の色や衣装を指示したことはない」と否定しながら、「あのような環境の研究室を案内することを含めて、発表準備をしてきたのは事実」とも認める。iPSと比較した優位性を強調するなど、結果的に過剰な演出、成果の誇張があったことは否めない。

「取材用の実験室を設けるなどの演出は、力のある研究機関の広報ならよくあること」と明かすのは、科学技術ジャーナリズムを研究する早稲田大学政治経済学術院の田中幹人准教授。「科学成果を巧みに演出するのは世界的な潮流。たとえばNASAも4年前、『地球外生命体が発見された』といった発表で注目を集めたが、実際は地上で珍しい菌が見つかったという内容で、その後の検証でとても宇宙生物にはならないともわかった」。

堅実と思われた研究機関が、こうした偽装に走る背景には、厳しい予算獲得や生き残り競争がある。成果を出す研究所には資金や地位、人材が集中。既存メディアを辞めた科学記者が広報担当に採用され、「メディア受けする広報」に拍車を掛けることもある。その先にあるのは企業との癒着や論文の捏造という落とし穴だ。「売るための科学」として、国際的に議論され始めた問題なのだという。

「現実には科学もおカネや政治と無関係でいられない。しかしメディアでは『無垢な研究者像』が求められ、ノーベル賞などを意識すると研究者自身もそう振る舞う。二重、三重のねじれのようなものが今回は顕著に出てしまったのかもしれない」(田中准教授)。

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