憲法第75条をにらみながら、舞台裏で始まる暗闘

憲法第75条をにらみながら、舞台裏で始まる暗闘

塩田潮

 先週、新聞が「鳩山献金元秘書立件へ」と報じ、鳩山首相の偽装献金の捜査が進展中であることをうかがわせたが、人々の関心事は首相の進退問題への影響だろう。事件の内実は不明な点だらけだが、もし元秘書が起訴された場合、当然、首相の責任問題が議論になる。さらに進んで、仮に首相自身の容疑が明らかになったとしたらどうなるのか。

 今春、西松建設事件に関連して現職閣僚の二階経産相の関係の疑惑も報道されたが、その際、気になったのが「国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない」という憲法第75条の規定であった。この場合の「訴追」には捜査段階での逮捕や勾留も含まれるという。もちろん検察側は、もともと現職閣僚の訴追に首相の同意が必要であることは百も承知だったはずだ。
 今度は首相の関係する疑惑である。第75条の「国務大臣」に首相も含まれるかどうかだが、この場合の「国務大臣」から首相を除外する特別の理由はないというのが通説のようだ。であれば、鳩山首相は、仮に訴追相当となれば、訴追に同意するかどうかの決定権を持っていることになる。その場合の選択肢は同意、不同意、首相辞任の三つに一つだ。不同意を決めても政治責任の追及が激しくなるから、結局、辞任に追い込まれるに違いない。

 もう一つの焦点は検察側の出方だ。首相が不同意なら、公訴提起できないのだから、不同意で訴追不可となる可能性がある容疑について、訴追を視野に入れて捜査などの立件準備を進めるべきかどうかが検討課題となるだろう。
 不同意も覚悟の上で首相自身に訴追への同意を求める「全面対決型」でいくか、不同意の可能性がある以上、初めから訴追を考慮に入れない「対決回避型」を選択するか。あくまでも鳩山首相の違反容疑が固まり、訴追相当となった場合の話だが、憲法第75条の壁をにらみながら、舞台裏で暗闘が始まる可能性もある。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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