新型コロナ、あのMERSと何が共通しているのか 過去の感染症が示す発生→流行のメカニズム

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過去の中東において、人々はラクダと密着した生活をしていたため、幼少期からMERSウイルスに感染する機会を得ていた可能性がある。小児のころにMERSウイルスの初感染を受けた場合には、MERSの症状は軽症にとどまっていたため、取るに足らない病気で済んでいたと考えられる。

ところが急速に都市化が進んでいる生活においては、環境が大きく変わっている。つまりラクダと接触する機会のないまま成人し、MERSウイルスに初感染することが少なくないわけだ。しかし、特に中高年になってから初感染した場合は重症化しやすく、健康被害が顕在化してきた可能性があるという。

初感染を受ける年齢層が子どもから大人に移行したため、中高年で重症化しやすいMERSが、問題のある疾患となって現れてきたとも推測できるのだ。

コロナウイルスは、通常、動物の種の壁を超えて感染することはほとんどありません。しかし、SARSコロナウイルスやMERSコロナウイルスは、種を超えて人に感染して、重症肺炎を起こしています。
SARSコロナウイルスも、中国東部のコウモリを起源としたウイルスであると推定されます。それが遺伝子の変異を起こして人に感染しやすくなって流行を起こしました。MERSも同じような遺伝子の変異を起こし、人から人へ感染伝搬する効率を上げて、流行を起こす危険性があるのです。(34ページより)

いまMERSから学ぶべきこと

こうして確認してみただけでも、MERSと現在の新型コロナウイルスとの共通点を意識することができる。とはいえもちろん、感染経路も症状も異なってはいるはずだ。

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しかし、過去の感染症がどのように発生し、どう広まっていったのかを知っておくことは、いま対峙する新型コロナウイルスから身を守るために決して無駄ではないだろう。

いつ、どのようなタイミングで新型コロナウイルスが収束に向かうのかはわからないが、少しでも多くの知識を得て、冷静に判断・行動することがわれわれには求められているのではないだろうか。

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「WEBRONZA」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など著作多数。

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