世界2大鉄道メーカー「統合」、どうする日本勢? 3位が4位を買収、「3強」の構図崩れ勢力図激変

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今からほぼ10年前、2010年度の日立の鉄道事業の売上高は1331億円。会社全体の売上高に占める鉄道事業の比率は1.5%にすぎなかった。

ボンバルディアと日立が共同で製造するイタリアの高速列車「フレッチャロッサ1000」(記者撮影)

それから8年で売上高は5倍に増え、全体に占める鉄道事業の比率は6.5%まで高まった。鉄道躍進の立役者であるアリステア・ドーマー氏は、今や同社初の外国人副社長だ。

アルストム出身で鉄道業界を知り尽くすドーマー氏は、アルストムとシーメンスの統合話について「そう簡単に認可されるとは思えない」と予言し、事態の流れを読み切っていた。昨年6月に開催された投資家向け説明会では、「M&Aのチャンスを探している」と発言していた。今後どう動くのか興味深い。

海外事業で苦戦する日本メーカー

ただ、日立に続く国内メーカーの海外展開はいささか心許ない。鉄道売上高が1246億円で国内2位の川崎重工業は、かろうじて世界の主要プレイヤーの一員に数えられるが、3~5位の近畿車輌、日本車輌製造、総合車両製作所は規模が小さく、海外メーカーの買収に動くとは考えにくい。逆に買収されないかというと、JRや大手私鉄の系列下にあるため、その心配は杞憂だ。

これらの会社の多くが現在海外事業で苦戦中。川重は米国向け案件の採算が悪化し、一時は鉄道車両事業からの撤退も検討したほどだ。近畿車輌は中東ドバイやドーハの都市鉄道は好調だが、米国のLRTはコスト増に苦しむ。日本車輌製造も米国工場を閉鎖した。とても、海外に積極的に打って出る状況ではない。

一方で、国内の鉄道車両は新幹線から在来線まで、既存車両を新型車両に置き換える動きが進んでおり、現在はそのまっただ中にある。「あと数年は国内車両の更新需要で食べていける」(鉄道メーカー幹部)。そのため、リスクの高い海外案件を無理して取りに行く必要がない。

しかし、海外案件に関わるのは車両メーカーだけではない。単独で鉄道案件を丸ごと引き受けることができる日立を除けば、車両、信号、電機部品など専業メーカーが多い日本勢は、海外の大型案件には複数メーカーがコンソーシアムを組んで参加することになる。

鉄道の顔ともいえる車両メーカーが海外展開に消極的では、ほかのメーカーの気勢も上がらない。国内における鉄道車両製造の需要が潤沢な今のうちに、将来の海外展開に向けた手を講じておくべきではないか。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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