ホンダの新型フィット「エース復権」への道のり 相次いだ先代のリコール、首位奪還なるか

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3代目の売れ行きが伸び悩んだのは、女性客の心をつかみきれなかった点も大きかった。新型フィットの開発責任者を務め、3代目にも開発責任者代行として携わった田中健樹・本田技術研究所主任研究員も「女性からあまりいいフィードバックが得られなかった」と認める。

3代目ではグリルとヘッドランプが一体的につながり、男性的でシャープなフロントフェイスなどが女性に不評だった。田中氏によると、2代目では購入者に占める女性比率が4割程度だったが、3代目では3割程度に低下したという。ファミリーや夫婦で自動車を購入する際、女性が決定権を持つ割合のほうが高いとされるだけに、女性からの不評は誤算だった。

女性を意識した新型フィットのデザイン(撮影:大澤 誠)

その反省もあってか、新型の車体やヘッドライトなどは丸みを帯びたデザインとし、内装もシンプルにまとめ、女性的で優しい印象を打ち出している。日本本部長の寺谷氏は「3代目で男性寄りだったデザインを、ユニセックスに戻した。これでより幅広い層に受け入れてもらえると思う」と自信を示す。

本当の敵はヤリスではない

フィット発売で世間の注目を集めるのは、フィット発売のわずか4日前となる2月10日に発売されたトヨタの新型コンパクトカー「ヤリス」との対決だ。刷新を機に旧名「ヴィッツ」からグローバル名称に改められたヤリスは、2019年に8万1000台を販売。希望小売価格は139万5000円からで、HVは199万8000円から。フィットと価格帯も重なっており、強力なライバルであることには違いない。

トヨタの新型ヤリス(撮影:尾形文繁)

ところが、ホンダ関係者から聞こえてくるのは、「それほどガチンコ勝負にはならないのではないか」という声だ。ヤリスは疾走感を表現した鋭い顔付きで、どちらかと言うと男性的な印象を受ける。デザイン以外の商品性でも、フィットとヤリスは方向性が異なる。フィットは「心地よい視界」や「座り心地」、「乗り心地」といった数値化できない“心地よさ”をアピールする一方で、ヤリスは走行性能の高さを前面に押し出す。

田中氏は「ヤリスとは発売時期も近いし、販売台数も競うだろう。ただ、コンセプトもまったく違うし、お客さんがどちらを買うかで悩むことはあまりないのではないか」と言う。

それでは本当のライバルはどの車なのか。多くの業界関係者が指摘するのが、軽自動車販売台数トップに君臨する自社の「N-BOX」との競合だ。軽自動車は近年、安全装備や外装デザイン、内装の質感などが向上し、登録車から軽に乗り換える人が増えている。N-BOXではオプション次第では200万円を超えるなど登録車並みの価格帯だ。3代目フィットからN-BOXに乗り換えたユーザーは多いとされ、寺谷氏も「そんなに食い合いは心配していない」としつつ、「顧客が多少かぶる部分があることは事実」と言う。

2020年内には日産自動車の主力コンパクトカー「ノート」も全面改良するとみられ、コンパクトカーと軽自動車が入り乱れての大混戦も予想される。フィットはあらゆる難敵に打ち勝ち、再び輝きを取り戻せるか。

岸本 桂司 東洋経済 記者

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きしもと けいじ / Keiji Kishimoto

全国紙勤務を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。自動車や百貨店、アパレルなどの業界担当記者を経て、2023年4月から編集局証券部で「会社四季報 業界地図」などの編集担当。趣味はサッカー観戦、フットサル、読書、映画鑑賞。

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