期待されて異動した若手社員が酷評された理由 求められる仕事を本人に明示しない組織の罪

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1カ月、2カ月と経つうちに、「いつになったら自分が学んできた知識やノウハウを発揮できるのだろうか」と思いつつも、「マーケティング部のなかではいちばん若いし、まずは与えられた業務を完璧にこなし、アピールしていくことが重要な業務を任されることにつながるに違いない」。そう島村は自分に言い聞かせ、分析資料の精度やスピードにこだわり、ミスをしないように報告資料を作成した。

その結果、島村が作成した資料自体はまわりからの評価も高かった。

自分の仕事ぶりがまったく評価されなかった

そうこうしている間に半年を経て、10月には評価が実施された。

島村は、自身の仕事ぶりとその成果には自信があった。総務部で鍛え、身に付けた持ち前のエクセル処理、加工の速さと正確さを活かし、上司の期待以上のスピードと精度で資料作成を、6カ月間、徹底して行えたという自負があった。また、島村は、なにより最高の評価を獲得し続けることで、30人近くいる同期の中でトップの昇進コースの死守にもこだわっていた。

島村は、自己評価ではすべての評価項目を「期待を大きく超える」場合の「S」評価として部門のマネージャーに提出した。

11月に入り、島村の6カ月間の評価結果がマネージャーからフィードバックされた。自分の評価を前に、島村は愕然とした。結果は「C」評価。「S、A、B、C、D」と5段階ある評価結果の中で、標準よりも下のランクに位置づけされるものだった。

「与えられた仕事をこなしているだけでは、入社3年も経った中堅の君には『B』評価すら与えられない。ましてや、自己評価をオール『S』とするとは自分自身の仕事レベル、貢献度をまったく認識できていない。

総務の田中マネージャーからは、『島村君は、期待できるよ』と聞いていたが、とんだ見当違いだった。このままでは、ウチでは作業係のままで終わってしまうよ。もう一度、自分自身をしっかり振り返って、反省し、頑張って貢献してくれないと」

マネージャーからのことばに島村は目の前が真っ暗になり、何を言うこともできなかった。

島村は、自分がなぜそのような評価を受けるのか、まったく理解ができなかった。総務部でやってきたときと同じ仕事の取り組み方で、希望の部門で働くことができるというモチベーションや、さらに多くの作業をこなすことでむしろ作業の処理スピードや精度は向上していた。しかし、総務部で3年間、合計6回すべて「S」評価だったものが、いきなり「C」評価となってしまったのだ。

フィードバック面談後、1週間程度が経過し、島村はようやく冷静になって自分自身の仕事ぶりを振り返ることができるようになった。しかし、どうしても評価結果の理由がわからない島村は、マネージャーに改めて時間をとってもらうように申し出た。

マネージャーの言い分はこうだ。

「島村君は、自分の作成した資料が何にどう使われるのかを考えたことがあるのかね? ただ私や主任の指示で資料を作成するだけでは、いくらその出来栄えがよかったとしても『C』評価しか与えられないよ。島村君が作成した資料やデータは、さらに数字やデータを追加して加工し、分析も加えて販促に効果的に活用できる指標を導き出さなければ使えない。

われわれが活用できるレベルにするまでどれだけ時間をかけているかわかってる? データや資料が活きたものになるように、つねに考えながら仕事を進めて、改善ができていて初めて『B』評価レベルだよ。次からしっかり改善提案を毎月行えるように向上意識をもって仕事に取り組んでくれ」

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