人事部長曰く、「間違ってこの会社に入っちゃったな」
いつの時代も「働き方」についての議論は尽きないが、ここ数年、特に目にする機会が多かったのは「ノマド vs. 社畜」という構図。
「これからはノマドワーカーの時代。会社に縛られず、ソーシャルメディアを駆使して自由な働き方をしよう」
「いやいや、個性など一部エリートの特権だ。まずは会社の歯車として全力を尽くせ」などなど。
僕は大学卒業以来、17年間会社員を続けてきた。現在はいくつかのラジオ番組を担当する中堅プロデューサーだ(TBSに入社し、3年目にラジオへ異動した)。これまでのキャリアを振り返ってみると、転機になったのは、2006年にスタートした「文化系トークラジオLife」だろう。
パーソナリティの鈴木謙介さんをはじめ気鋭の論客が集うトーク番組で、津田大介さん、國分功一郎さん、古市憲寿さん、速水健朗さんらを輩出、いま僕のメインの仕事になっている「荻上チキ・Session-22」にもつながった。「Life」をきっかけに、会社という組織の中で「やりたいこと」を実現していく道が開けてきたように思う。
入社して数年間は、ひたすら途方に暮れていた。就職面接のときに希望していた番組は、内定期間中に打ち切り。入社後もテレビ局特有の体育会系っぽいハイテンションなノリについていけず、半年後に人事部長から「間違ってこの会社に入っちゃったな」と言われたのを今でも覚えている。しかも僕自身、その言葉に反発するどころか、「そうですねえ」と深く同意したのだった……。
しかし僕は、「会社になじめないならば外に飛び出してやりたいことをする!」なんてタイプではなかった。ぼんやりと夢想することはあっても実行する勇気はなく、そもそもやりたいことが何なのか、ビジョンも明確ではなかった。かといって会社に忠誠を誓う社畜になりきる覚悟があるわけでもない。そんな僕が会社員の立場で、やりたいことをできるようになったのはなぜだろうか。
それにはこんな理由がある。もともと僕は宿題を出してもらわないと勉強できないタイプ。自分探しも自分磨きも面倒な、意識低い系だ。会社に属していれば強制的にいろんなことをやらざるをえないが、僕の行動原理は「より嫌じゃないほうを選ぶ」といったネガティブなものだった。
ところが意外にも、この発想が僕を「やりたいこと」に導く原動力になった。つまり、会社から命じられる仕事をこなしていくうちに、逆にやりたいことがあぶり出され、明確になっていったのだ。やりたくないことを潰していった結果、消去法で残った部分に自分の「個性」が見いだせるようになってきた。
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