日本の「樽生ビール」時代遅れになりかねない訳 世界のビール会社は次々と樽を変えている

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世界の大手もこの流れに同調してきています。世界最大手のビール会社アンハイザー・ブッシュ・インベブは昨年、ワンウェイケグを導入すると発表。メキシコなどで展開していましたが、今月からはついに日本でも取り扱いが始まりました。インベブは、ステラアルトワやヒューガルデンなど、世界中で販売しているブランドのビールを完全独自規格のワンウェイケグで展開し始めています。

ほかの大手も同様で、世界2位のハイネケンはブレード、4位のカールスバーグはドラフトマスターというそれぞれ独自規格のワンウェイケグシステムを開発し、市場に投入しています。

これら大手のワンウェイケグはサーバーにつなぐ器具の規格がそれぞれ異なっており、互換性はありせん。他社と規格を共有することがないのもポイントです。世界的に一般的なビールの消費が減少し続ける中、各社ともブランド露出やボリューム確保のためにも、販売の最前線である飲食店のサーバーを押さえることが最重要課題となっており、互換性のない独自パッケージやシステム開発に力を入れているわけです。今後、この「規格戦争」は一層激化することが見込まれ、日本もその戦場の1つとなるわけです。

日本のビール会社は導入に「後ろ向き」

輸入ワンウェイケグの価格はだいぶ下がっており、20リットル単位で見た場合、ワンウェイケグの容器代が返送費とほぼ同じになってきています。以前よりかなり導入しやすい環境になっているのですが、日本では導入がなかなか進みません。多くのビール会社が二の足を踏んでいる背景には、日本特有の問題がいくつかあると感じています。

導入をためらう理由は、中小のクラフトビールメーカーと大手では異なります。まず中小の場合、世界の中小ビール会社はワンウェイケグを導入することで物流費や労務費を削減し、人にしかできない仕事に力を入れています。樽を回収するのに車を走らせたり、洗った樽の数を確認するよりほかにやるべきことがあるだろう、というわけです。

一方、日本の中小ビール会社にとって、ワンウェイケグの導入は洗えば何度も使えるステンレス樽を諦めることであり、これはすなわち先行投資の回収を諦めることと捉えています。そのサンクコストについて悩み、導入を躊躇しているのだと思われます。結果、かなりの部分をマンパワーでこなし、長時間労働が当たり前になっています。

日本のクラフト会社ではテクノロジーの導入が進んでおらず、クリエイティブな作業に集中できる環境が整っていないように思います。醸造や充填、洗浄、そして営業や経理作業などをわずかな人手で行っていることが多く、労働時間は極めて長い。特に夏の繁忙期にはビール祭りなどの催事出店もあり、多忙を極めます。これでは、新商品の開発やSNSの運用、リアルな営業活動などをする時間も限られてしまいます。

一方、大手はどうでしょうか。インベブやハイネケンのように日本の大手も独自規格のワンウェイケグを開発して導入するのか気になるところです。キリンビールがクラフトビール用に開発したサーバー「タップ・マルシェ」では、3リットルの使い捨て容器が使われています。これはワンウェイケグの一種だと考えていいと思いますが、ほかの大手では今のところこうしたものは使われていません。

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