「長期間スト」にフランス人が怒らない根本理由 パリの人たちはいつのまにか我慢強くなった

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こうした不便さに、多くの人はイライラしています。それでもストライキをしている人たちに対して怒っている人は多くありません。それで驚いたのです。パリジャンがここまで我慢強いということに。

一方、ストの中で、自転車やスケートボード、「電動トロティネット(キックボード)」という移動手段の利用が広がっています。とくにヘルメットが必要なく、それなりにスピードが出る(最高時速は25キロ以下に制限されています)電動キックボードはとても人気です。

フランスでは2017年に電動キックボードのシェアリングサービスが導入されており、目下約10社がサービスを提供しています。運転できるのは12歳以上で、2人乗りは禁止。原則として、自転車専用レーンを使うことになっています。

パリ中に自転車があふれ始めた

パリ市長のアン・イダルゴはかねてパリの街を自転車であふれる街にしようとする「アンチ自動車」政策を掲げています。そのために、街中に新しい自転車専用道路を作っています(そのせいでどこも工事ばかり)。いまや、セーヌ川沿いは歩行者と自転車専用です。ストライキ中の数日間、いくつかの道路では自動車と自転車の数がほぼ同じだったといいます(進捗を図るために、双方の数を計るシステムがあるのです)。

自転車専用道路が増えるにつれて、自転車利用者も増えるパリは、オランダやデンマークのようです。ただ、問題はフランス人があまりにも規律を守らないこと。さらに問題なのは、自動車を運転する人が、自転車や電動スクーターに慣れていないことです。そのせいで、事故も増えています。

フランス人のほとんどは、政府が提案する年金制度の一本化に反対しています。これが、フラストレーション、疲労、ストレスにもかかわらず、多くの人がストライキとデモをサポートしている理由です。

私は日本に長くいるので、ストライキをしている人たちが自らの国の経済を「破壊」しているのを見るたびに驚きます(公共交通機関はストップし、ホテルやレストランはガラガラで中にはスタッフを解雇しないといけない店も出てくるなど、経済的には大きなダメージがあるわけですから……)。

一方で、ストライキを行う権利、政府の年金制度の一本化政策に対してデモを行い、反対する権利は、基本的な権利としてフランスではとてもポピュラーで、つねにこの「革命の精神」への愛があります。

また、今回のストで新たな移動手段に目覚めた多くのパリジャンは、ストライキ終了後も電車生活には戻らず、自転車や電動キックボードといった移動手段を楽しみたいと言っています。もう自動車でもないのです。この長いストライキは、パリジャンが我慢強いことを示しただけでなく、歩行者と2輪車が街の中心にある、新たなエコロジー時代への移行を助けることとなったのです。

ドラ・トーザン 国際ジャーナリスト、エッセイスト

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Dora Tauzin

フランス・パリ生まれの生粋のパリジェンヌ。ソルボンヌ大学、パリ政治学院卒業。国連本部広報部に勤務ののち、NHKテレビ『フランス語会話』に出演。日本とフランスの懸け橋として、新聞・雑誌への執筆、テレビ・ラジオのコメンテーター、講演会など多方面で活躍。著書に『フランス式いつでもどこでも自分らしく』『パリジェンヌはいくつになっても人生を楽しむ』『好きなことだけで生きる』などがある。2015年、レジオン・ドヌール勲章を受章。公式ホームページはこちら、 Facebookはこちら

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