いつも戦場。思い続ける力~再建・大不況・電気自動車--益子修・三菱自動車工業社長

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 100年分の在庫 先輩の手紙、華僑の涙

韓国から戻り、97年、インドネシアの事業統括会社KTBのチーフアドバイザーに就任した。インドネシアは流通企業への外資の出資を認めておらず、チーフアドバイザーは実質社長である。「ついにオレも(主流の)インドネシアをやるのか」。

前任者が引き継ぎで言った。「ここはいいぞ。景気はいいし、ゴルフは楽しいし。僕のことは気にせず、どんどん積極的にやってくれ」。

引き継いだ途端、アジア通貨危機が急襲した。1ドル=2400ルピアが翌年1月、1ドル=1万7000ルピアに落ち込んだ。7分の1になる大暴落。内需は一気に凍りついた。

が、直前まで景気は絶好調だったから、大量の完成車・KD(ノックダウン)部品を日本に発注している。商事本社や三菱自動車にキャンセルを申し入れたが、「何言っている。キャンセルはできない。できないものはできない」。益子は瞬間的に100年分の在庫を抱え込んだ。

そのとき、インドネシア事業を立ち上げた大先輩から手紙をもらった。「これまでインドネシア事業に誇りを持っていた。だが、君たちの苦労を見て、むしろ、この事業はやらないほうがよかった、と思う。本当に申し訳ない」。涙が出た。何としても、インドネシアを立て直そう。

人員を3~4割削減した。苦渋の決断だが、自ら血を流さなければ、商事本社がカネを貸してくれない。借入額は131億円。「大変な思いをした。ケチな会社と思ったよ」。

益子は支援策にメリハリをつけた。本業一筋の生産会社は全面支援したが、販売会社は不動産バブルに悪乗りしていた。「無理に売っていただかなくて結構。売れるものだけ売ってくれ」。ユーザンス(信用供与)を停止し、キャッシュ・オン・デリバリーに切り替えた。

在庫は自力で処理する腹を固めたのだ。が、100年分をどうさばくのか。一筋の光明は、為替のマジックだ。たとえば、今が1ドル=1万ルピアなら、1ドル=5000ルピアで輸入した車は半値で売っても元が取れる。ドル建て・割引輸出という手がある。

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