大塚明夫「声優の大多数が仕事にあぶれる理由」 300の椅子を1万人以上が奪い合っている

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そもそも、人は何をもって「声優になった」と言えるのでしょう。声優プロダクションに所属できたら? 「いらっしゃいませ」の一言の台詞でも、作品の中で発することができたら立派に「声優」なのでしょうか。

このくらいは皆さんもご承知だと思いますが、「声優になった」からといって、声の仕事が自動的に、毎月のお給料のように舞い込んでくるわけではありません。

1件1件の仕事を、いわゆる「人気声優」たちとも対等に取り合っていかねばならない。その競争は、皆さんが想像する以上に激しいものです。コンテンツの制作サイドからすれば、欲しいのは「ギャラが予算内に収まり、かつ良い芝居ができる人間」であることがほとんどですから、テレビや舞台の俳優を声優として使うことだって自由です。

「声優という肩書きの人間のほうがいい芝居ができる」なんて思い込んでいるのは一部のオタクだけです。

肩書だけでは仕事は得られない

つまり、声優という肩書自体に、「声の仕事を得る」ための効力はないのです。「声の仕事をしている役者のことを声優と呼んでいる」だけなのですから当然です。

この順番を取り違えている新人声優がよく、「声優になったのに仕事がない、おかしい……」と悩んだりするのですが、そこで「なんで僕に仕事がこないんだろう」と真剣に考えられる人ならばまだマシなほう。「就職」気分が抜けない人にはそれが難しいらしく、「仕事がこないのはおかしい」という考えから抜け出せないまま、大小さまざまな失望を抱いてこの業界を去っていくことになります。

そんな人を、私はこれまでに飽きるほど見てきました。出会う新人声優の9割以上はこの顚末をたどると言ってもいいくらいです。ほとんどの声優は、充分な数の仕事になんぞありつけないからです。

普段は、それで困り果てている若者たちを見ても、私のほうからあれこれ口を出したりはしません。そんなに暇でもありませんから。しかし、今回はせっかく皆さんにお話しできる機会をいただいたので、声優という生き方の何がおすすめできないのか、なるべくわかりやすくお伝えしたいと思います。

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