安倍インド訪問延期、新幹線輸出に何が起きた? 草の根から始めても開業までには紆余曲折

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州都ムンバイを抱えるマハラシュトラ州の政治が大きく揺れている。10月に実施された州議会選挙の結果、モディ首相が党首を務めるインド人民党が政権の座を降り、3党連立政権が11月に発足した。そして新たに選出された州新首相は厳しい州財政を理由に、高速鉄道を含む州内のインフラ計画を見直すと12月1日に発表したのだ。

計画も円借款で行われるため州財政への影響は限定的であり、産業振興につながる高速鉄道計画が中止になることは考えにくいというのがもっぱらの見方だが、連立政権の支持基盤である農民層が高速鉄道建設のための農地収用に反対しているため、今回の発表は農民層に配慮した結果ともいえる。いずれにせよ、新首相の方針が高速鉄道計画に何らかの影響を及ぼす可能性は拭えない。

そもそも土地収用が進んでいない。今年7月時点で土地収用は全体の4割程度が完了しているにすぎない。現地事情に詳しい関係者は「エリアによっては1割程度しか土地収用が終わっていないところもある」と話す。

安倍首相とモディ首相が出席して起工式が行われたのになぜこれほど遅れているのかという気もするが、実は起工式の同日、本体工事に付随して建設される研修施設内に設けられる実習線の起工式が行われている。その意味では、2017年9月14日の起工式とは、本線ではなく実習線の起工式にすぎなかったという見方もできるのだ。

2022年「一部でも開業できれば」

総費用も当初計画を大きく上回っているようだ。「もともとの計画の詰めが甘かったのかもしれないが、インド側から仕様変更の要望が次々と出ている」と、高速鉄道プロジェクトの関係者が明かす。例えば、当初は東海道新幹線のような盛り土を想定していたが高架になった、全駅にホームドアを設置することになったといったものだ。

こうなると2023年の開業が危うくなってくるが、「インド側が重視しているのは2023年よりも、独立75周年の節目である2022年。そのシンボリックな年に一部区間だけでも開業できれば、全線開業は2023年より遅れてもかまわない」(前述の関係者)。

土木工事の入札が始まった区間もあり、50~60km程度の区間の建設であれば、2022年に間に合うかもしれない。ただ、この程度の開業では物見遊山的な利用しか期待できず、採算に乗るとは到底思えない。今回のプロジェクトはムンバイとアーメダバードを結ぶことで採算が成り立つのだ。不完全な開業の状態が長期間続くことで、日本側にデメリットとなることはないか。慎重に見極めたいところだ。

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