遊覧飛行とSL体験、一石二鳥ツアー誕生の裏側 成功の鍵は「空港民営化」にあった

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遊覧フライトを行う空域も問題だった。富士山周辺には西行きの航空路が多く、航空管制の立場から見るとあまり飛んでほしくはない空域だ。事前に関係機関との綿密な調整が必要となり、あまり頻繁に実施することは難しい。とくに取り決めはないものの、月1回程度の開催が限度とされた。

こうした問題はあったものの、2018年11月30日に第1回目の3社連携ツアーが催行された。だが、思うように集客が進まない。初回は大井川鉄道の新人研修で十数席を確保してなんとか最低催行人数をクリアしたが、同年12月に設定された1泊2日のツアーは、2回設定したうちの1回が催行中止となった。「大井川鉄道のツアーは日帰り」というイメージが浸透していたからだ。

状況が変わり始めたのは、2019年に入ってからである。遊覧フライトとSLをいっぺんに体験できるという内容が口コミで広がり、2月頃からは安定して予約が埋まるようになった。3歳以上2万円台半ばで家族4人で参加すると10万円になってしまう価格設定も、内容が知られてくるとむしろ安いと評価された。過去6回のツアーでは8割の参加者がアンケートに「安い」または「妥当」と答えている。

県民が地元を見直す機会にも

湖に浮かんだような立地の秘境駅・奥大井湖上駅を訪れた一行は、大井川鉄道・井川線の列車に乗って、日本で唯一のアプト式区間(歯車状のラックレールと特殊車輪を噛み合わせて急勾配を越える方式)を体験。大井川に架かる塩郷の吊橋から機関車トーマス号の走りを眺め、川根温泉笹間渡駅からSL急行「かわね路」号に乗車した。この頃には、参加者同士も親しくなり、会話を交わす機会も増えてきた。

浜松と金谷から参加した女性の親子は、大鉄観光の常連だ。

「大井川鉄道のツイッターを見て申し込みました。いつもは地方のツアーに参加しているんですが、なかなか地元をちゃんと見る機会がなくて。値段ですか? 飛行機とSLに乗れて2万円台は安いと思います」

一方、焼津から参加した年輩の男性は、孫6人を連れての旅。

「孫たちを飛行機に乗せてあげたくて参加しました。普通の飛行機ですと、帰ってこなくてはいけませんから。機関車にも乗れて、大喜びです」こうして、SL列車は16時過ぎに新金谷駅に到着。バスで富士山静岡空港に戻り、空港でお土産タイムを取ったあと、静岡駅で解散となった。普段は県内と県外が半々だという参加者は、この日はたまたま静岡県内の人が多かった。地元の自然と乗りものを存分に楽しんだ1日になったようだ。

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