《財務・会計講座》歴史的な金融・経済危機、その原因を作ったのはMBA教育か?

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 このように定義された「企業価値」とは、ファイナンス理論でいうところの「経済的企業価値」に対して、「社会的企業価値」とでも定義されるものではなかろうか。このような社会的価値を継続的に増加していける企業のみが長期的に生き残っていけるのである。最近MBA教育界や経営界では企業存続の鍵を握るものとして「サステイナビリティ(持続可能性)」という言葉が脚光を浴びているが、まさに「社会的企業価値」を継続的に向上していける企業こそが「サステイナビリティ」を持った企業といえよう。

「社会的企業価値」とは以下のような付加価値の総和として定義できよう(PV:現在価値)
(1)付加価値@社会・環境=環境破壊の最小化もしくは環境改善価値
(2)付加価値@顧客=PV(消費者余剰)(*2
(3)付加価値@ベンダー=PV(利益@ベンダー)
(4)付加価値@従業員=PV(給与)+PV(企業に帰属することの精神的効用)
(5)付加価値@経営者=PV(報酬)+PV(企業を経営することの精神的効用)
(6)付加価値@有利子負債の提供者=PV(有利子負債の提供者へのリターン)
(7)付加価値@株主=PV(株主へのリターン)

 企業としては以上の付加価値の総和を長期的に最大化するよう経営していけばよいわけである。また、政府・国家は以上の付加価値の総和から得られる税収からインフラの提供コストを差し引いた余剰を最大化していくことになる。

 経営とは当たり前のことを当たり前に正しく実行して行くことではないだろうか。鱒の記憶は30分といわれており、実際に筆者の経験でも1回釣られた鱒は川に戻して30分もすればまた釣り上げることができる(但し、何回も釣り上げられているとそのうちに学習して用心深くなり、中々釣り上げることが難しくなっていく)。人間の反省と記憶もせいぜい10年程度しか持続せず、更に鱒と違ってあまり学習していないのかもしれない。このため、経済・金融危機は10年に1度程度と比較的頻繁に発生することになる。

 正しい経営理論を通じて記憶をもっと長続きするものにしていく、これが本当のMBA教育の姿ではないだろうか(グロービス経営大学院では、正しい経営理論を身につけ、志をもって実践していくことのできる経営者・起業家である“創造と変革の志士”を育成し、社会に貢献していくことをその教育理念としている)。

*2 右肩下がりの需要曲線と右肩上がりの供給曲線の交わった点が均衡価格(Pe)と均衡供給(販売)量(Qe)となる。この状況下での売上高(=消費者の支払額)はPe*Qeとなる。しかしながら右肩下がりの需要曲線は、均衡価格以上の価格であっても消費者として支払う意志があることを示している。この需要曲線のPeと需給曲線の交点を結ぶ線より上のエリアを「消費者余剰」という。つまり消費者全体としてはPe*Qeにこの消費者余剰を加えた金額まで支払う用意があることを示している。

《プロフィール》
斎藤忠久(さいとう・ただひさ)
東京外国語大学英米語学科(国際関係専修)卒業後フランス・リヨン大学経済学部留学、シカゴ大学にてMBA(High Honors)修了。
株式会社富士銀行(現在の株式会社みずほフィナンシャルグループ)を経て、株式会社富士ナショナルシティ・コンサルティング(現在のみずほ総合研究所株式会社)に出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。
その後、ナカミチ株式会社にて経営企画、海外営業、営業業務、経理・財務等々の幅広い業務分野を担当、取締役経理部長兼経営企画室長を経て米国持ち株子会社にて副社長兼CFOを歴任。
その後、米国通信系のベンチャー企業であるパケットビデオ社で国際財務担当上級副社長として日本法人の設立・立上、日本法人の代表取締役社長を務めた後、エンターテインメント系コンテンツのベンチャー企業である株式会社アットマークの専務取締役を経て、現在株式会社エムティーアイ(JASDAQ上場)取締役兼執行役員専務コーポレート・サービス本部長。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2009年10月22日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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