イギリスの総選挙と「ブレグジット」のゆくえ 12月12日に行われる総選挙が「分岐点」となる

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ただ、1点注意しておくべきなのは、この形で離脱が実現したとしても、実質的な「合意なき離脱」の危険は残っているということである。なぜなら、離脱協定案では、2020年12月末を期限とする移行期間中に英国とEUの経済関係を規定する協定を締結することになっているが、この協定について合意に至らなければ、英国とEUの経済関係に大きな混乱がもたらされるからである。

もちろん、双方の合意で移行期間を延長することも可能だが、ジョンソン首相は選挙戦の中で移行期間の延長を否定する強硬姿勢を打ち出すことになった。その意味では、10月末に回避された「合意なき離脱」の危険は、実質的には1年少々先延ばしになったにすぎない、といえるかもしれない。

英国の将来を左右する総選挙

保守党が過半数議席を獲得できず、前回2017年総選挙と同様にハング・パーラメント(宙づり議会)になればどうなるのか。実は、今回の総選挙もハング・パーラメントとなる可能性は否定できない。前回の総選挙でも、選挙戦開始時点では保守党が労働党を支持率で圧倒的にリードしていたが、投票日までにリードが大幅に縮小した結果、メイ首相は過半数議席を獲得できなかったのである。

もちろん、ロンドン市長選で労働党候補を2度破ったジョンソン首相は、メイ首相よりもはるかに選挙巧者ということができるかもしれないが、不祥事でウェールズ相が辞任するなど選挙戦開始時点でのつまずきを見ると、保守党がリードを守ったまま総選挙に勝利するのは確実とまではいえないだろう。

もしハング・パーラメントになった場合には、これまでの英国議会の混迷が繰り返される恐れがあるだろう。また、可能性はそれほど高いとはいえないかもしれないが、もし労働党や自由民主党、スコットランド国民党など、EU離脱の是非について再度国民投票を実施することに前向きな勢力が下院で過半数議席を占めるようなことがあれば、2020年中に国民投票が行われることも想定される。

ただ、労働党の中には、国民投票を再度実施することに否定的な議員も存在していることから、2度目の国民投票でEU離脱問題に決着をつけるという道は、決してスムーズなものではないことが予想される。

BREXITのゆくえに一定の見通しが立つのか、あるいは不透明な状況がさらに継続するのか。12月12日に行われる英国の総選挙は、BREXITのゆくえのみならず、英国の将来を左右する分岐点になりそうだ。

力久昌幸(りきひさ まさゆき)/同志社大学教授。1963年福岡県生まれ。京都大学卒、同大学院博士課程研究指導認定退学。博士(法学)。北九州市立大学法学部教授を経て現職。専門分野はイギリス現代政治、ナショナリズムと政党政治。主著として、『イギリスの選択 欧州統合と政党政治』『スコットランドの選択 多層ガヴァナンスと政党政治』など。
「外交」編集部

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世界の動きを見つめ、日本のビジョンを語る、国内唯一の隔月刊外交専門誌。 内外の筆者が問題の核心を鋭く分析する。発行元は外務省だが、内容は独立した編集委員会が責任をもって編集している。

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