MMTをめぐる議論で欠けている「供給力」の視点 完全雇用をめざす「就業保証プログラム」問題

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島倉:この本の著者のランダル・レイは、「そんなことをしなくてもよかった」という立場です。結局、あの当時のインフレの原因は、オイル・ショックによる国際商品価格の値上がりだったので。

中野:70年代のインフレは、石油危機による典型的なコストプッシュ型インフレですから、財政はインフレの原因とはさして関係がない。その証拠に日本だけでなく世界中でインフレになった。

施 光恒(せ てるひさ)/政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院教授。1971年福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士(M.Phil)課程修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 (集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)など(写真:施 光恒)

島倉:コストプッシュ型インフレに対してマクロ経済政策の引き締めで反応する必要はなかったというレイの指摘は、確かに当たっていると思います。おかげで各国でインフレと不況が同時進行する、スタグフレーションになってしまった。

中野:失業者を増やしてまで金利を上げて物価を下げる必要はなかったということですね。

佐藤:さりとて、政府はインフレを放っておけるのか。「ご安心を。制御不能になりさえしなければ狂乱物価でも大丈夫です」と言って、どれだけ納得してもらえるかですね。

島倉:レイは「年率40%未満のインフレであれば、経済はそんなにおかしくならない」とも言っていますね。

柴山:アバウトだなあ(笑)。

「投資は供給力を増やす」

中野:40%はともかく、たとえ財政支出過多が理由でインフレが起きたとしても、そう長くは続きません。理由の1つは財政民主主義です。よく「増税や歳出削減をするのは国民が嫌がるから」と言うけれども、国民はハイパーインフレも嫌がりますので、高インフレを放置する政権は見切りをつけられてしまう。

財政支出過多によるインフレが続かないもう1つの理由は、「投資は供給力を増やす」という事実です。

供給に対して需要が増えて需給ギャップが広がるとインフレになるのだけれども、民間の設備投資でも公共投資でも、投資は供給力を増やすために行われます。

だから投資した瞬間には需要が増えても、それからしばらくすると設備が稼働して供給が増えるので、時間差で需要を追い上げることになる。供給が需要を追い続けているかぎり、一定以上のインフレにはならず、一方で経済の規模は拡大してゆく。これを「経済成長」と称するわけです。

ただしMMTはその名のとおり「貨幣理論」であるせいか、投資による供給の拡大についてはちゃんと議論されていないように思う。

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