とんねるずの「音楽活動」を軽視する人の大盲点 「悪ふざけと真面目さ」両立させた奇跡の歌手

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『ガラガラヘビがやってくる』『がじゃいも』などの子ども向けを装った遊び心満載の楽曲から、『情けねえ』『一番偉い人へ』などの社会派メッセージソングまで、とんねるずは幅広いジャンルの楽曲を巧みに歌いこなし、歌手としても大成功を収めた。

90年代以降は、とんねるず名義の活動の代わりに「野猿」「矢島美容室」など別ユニットでの活動も行っていた。

なぜ歌手としても魅力的なのか?

とんねるずの楽曲に共通しているのは、悪ふざけと真面目さが奇妙に同居しているところだ。楽曲のコンセプトや歌詞の一部がふざけていることもあるし、音楽番組に出るときの彼らは必ずと言っていいほどコミカルなパフォーマンスに終始していた。

だが、曲自体は見事に作り込まれていた。いまやアイドルプロデューサーとして時代の寵児となった秋元康の作詞がとんねるずの音楽活動の方向付けに大きな影響を与えている。

また、何よりも歌手としての2人のポテンシャルが高い。長身でスタイルのいい2人は、真面目に歌ってもふざけても絵になる格好よさがある。木梨は器用で歌唱力が高く、豊かな表現力を備えている。石橋は歌のうまさでは木梨にやや劣るものの、派手な動きや表情で観客を惹きつける天性のパフォーマー資質がある。それぞれが強い個性を持ちながら、歌手として並んで同じ曲を歌うときには見事な調和を見せる。音楽活動をこれほど高いクオリティーでこなせるお笑いコンビは後にも先にもいない。

とんねるずの音楽は、企画物であると同時に本格的でもあるような、ほかに比べようがない独特のものだった。彼らにとっては初めからふざけることと真剣にやることが表裏一体だったのだ。今後の音楽活動でもそれは変わらないだろう。

欲を言えば、コンビとしての音楽活動もいずれ復活させてほしいものだ。「とんねるずのみなさんのおかげでした」の最終回のエンディングを「情けねえ」の熱唱で飾った彼らの歌手としての輝きは、いまだに色あせていないと思うからだ。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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