ぐっちーさんが教えてくれた米国経済のリアル 「バブル崩壊の予兆」がちらほら見えてきた

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例えば、名前は挙げないが、9月に入ってからアメリカ市場で、創業10年の新興企業でまだ黒字化していないが「名のある会社」の10年社債(信用格付けはCCC格だ)が7.5%のクーポンで発行されて、そこそこ人気を集めた。低金利で運用対象に困っている金融機関には魅力的に見えるのかも知れないが、あまり率がいいとは言えない感じのギャンブルだ(競馬で言うと、1倍台の低い単勝オッズでも、勝てると思ってかなりのお金をつぎ込んで勝負する感じだ)。

同種の債券があった場合、結果はまちまちなのだろうが、経済全体が不況に傾いた時、低信用の債券に対する利回りのスプレッド(国債利回りに対する上乗せ利回り)が一気に拡大して、投資家がこの種の債券から一気に資金を引く可能性がある。そうなると、個別の債券がデフォルトに陥る前に、債券やローンを直接、あるいは間接的に大量に保有する金融機関が危機的状況に陥る可能性がある。

つまり、現在の債券(とローンの)市場は、好況でインフレ率が上昇したときにはベースとなる国債利回りの急上昇による債券全般の暴落が起こるし、小さな不況に陥った場合にもクレジット・スプレッドの急拡大が起きる、という数年単位で考えるとどちらに行っても難しい状況に見える。

ただし、どちらも「直ちに起こる」ものではなさそうなことも事実だ。どちらかの方向にあっても「限界」を超えるのは、何れも「1、2年程度以上の先」であるように現時点では思える。

どちらがより早いかという可能性を考えると、例えば、アメリカの大統領選挙前後に政策的な経済への後押しが一段落して、アメリカ経済がプチ不況に陥り、その際にデフォルトや倒産が集中的に発生して社債やCLOの保有者がパニックに陥るような状況の方だろう。

向こう数年の間に起こるかも知れない債券バブル崩壊への警告ランプは、一方に「インフレ率(の上昇)」、他方に「社債のスプレッド(拡大)」の2つだ。

個人投資家はどうすればいいのか

もっとも、バブルの実体が見えてきたからといって、投資家が今リスク資産全般の縮小を急ぐべきだとは思わない。今後一時的にかなり気持ちの悪い局面はあるかも知れないが、外国株式のインデックスファンドなどはじっと持ち続けていていいだろう。

債券バブルが崩壊するときに、株価も無事ではあり得ないが、それまでにかなりの株価上昇が起こっている可能性があるし、今急落したとしても、金融緩和が可能な状況(≒低インフレ)であれば1,2年で戻るだろう。

一方、商品名に「ハイイールド」(=高利回りの債券のこと)という単語が入る投資信託や、そもそも商品の枠組みが良くないが外貨建ての貯蓄性保険などには、そもそも近づかない方がいいし、既にお持ちの方はなるべく速やかに手放すことを考えるといい。

運用の常識から言って、信用リスクに対するスプレッドが縮む好況の後期にハイイールド債を持つのはセンスが良くない。現在のハイイールド債の投資家は、運用に困った金融機関などであり、「困った人が、やむなく投資する対象」からは、静かに離れておくのが多くの場合正解だ。

なお、解約にペナルティが掛かる保険商品の場合、解約に二の足を踏む投資家が少なくないが、ペナルティ分は実質的に購入時の損であり後から取り返せないサンクコストなので、保険会社に手数料を払い続けるのではなく、別のもっと効率の良い形で運用するのが正解だ。

もっとも、投信や保険を解約した後に、同じ金融機関で別の商品を買って、また手数料を貢ぐようなことをしないように、とご注意申し上げておく。

【2019年9月29日19時編集部追記】2019年9月24日、山口正洋さんは逝去されました。ご逝去の報に接し、心から哀悼の意を捧げます。

山崎 元 経済評論家

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やまざき はじめ / Hajime Yamazaki

1958年札幌市生まれ。東京大学経済学部卒業。経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、株式会社マイベンチマーク代表(投資と投資教育のコンサルティング会社)と複数の肩書を持つ。三菱商事、野村投資信託、住友信託銀行、メリルリンチ証券など計12回の転職経験を生かし、お金の運用、経済一般、転職と自己啓発などの分野で活動中。著書に『超簡単 お金の運用術』(朝日新聞出版)『「投資バカ」につける薬』(講談社)『お金がふえるシンプルな考え方』(ダイヤモンド社)など著書多数。馬券戦略は馬連が基本。【2024年1月5日編集部追記】2024年1月1日、山崎元さんは逝去されました。心から哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りします。

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