逆走シーサイドライン、自動運転「再開」で安心? 衝突事故から3カ月、予想よりも早かった復旧

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最大のネックは部品、とくに新たにF線・R線に設置するリレーの調達だった。部品は車両メーカーを通じて発注することになるが、「車両部品の調達は、経験上数カ月~半年程度かかるのがザラ」(同社車両担当者)。このため、具体的なスケジュールの見通しは立たなかった。

駅に張り出された自動運転再開告知のポスター(編集部撮影)

早期の自動運転再開が可能になったのは、部品調達が予想より大幅に早く進んだためだ。「メーカー側の協力で、まさにお盆もなく造っていただいた」(同社広報担当者)。車両の改修は8月23日から開始。工事は1日2編成のペースで進んでおり、30日までに全15編成の工事が終わる見込みだ。改修した車両は夜間に全線を2往復し、模擬的に断線を発生させて機能を確認する。

自動運転は、まず保安要員を運転席に乗せた状態で8月31日始発から再開予定。その後、3日ごとの「列車検査」で改修した部分の点検を強化して2回程度実施し、順調に進めば最も早い場合で9月6日から無人運転を再開する。その後も、改修した部分の重点検査を行う1カ月後までは、念のため終点駅のホームにある非常ボタンに保安要員を配置するという。

事故調査は今後も続く

再発防止対策については「有効」とのお墨付きを得て、無人自動運転を再開するシーサイドライン。ただ、運輸安全委による原因調査は今後も続く。

焦点の1つは、ほかの自動運転路線の車両と異なり、F線・R線が断線した場合に列車を止める設計になっていなかった点だろう。シーサイドラインの車両担当者は「(この仕様に)明確に気づいたのは今回の事故がきっかけで、他社とのシステムの違いは把握していなかった」という。

背景には、運行会社が把握できる領域を超えた技術のブラックボックス化がありそうだ。車両担当者は「研究所などがある会社は別だろうが、小規模な事業者の場合、回路などの仕様はメーカーにお願いするのが現実」と語る。また、同業他社との情報交換についても「技術的な部分はメーカーの知的財産でもあり、競合メーカー製の車両を使っている会社との細かい話は難しい」のが実情という。

今回の事故を受けた国交省の検討会では、無人自動運転を行う他社の安全性についても検証された。今後、鉄道の自動運転がさらに本格化していくとみられる中で、安全に関する技術情報を共有する仕組みなども課題となりそうだ。

原因については今後も調査が続くものの、再発防止対策については「有効」と判断され、無人自動運転を再開するシーサイドライン。事故によって揺らいだ自動運転に対する利用者の安心感と信頼感を取り戻せるか。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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