「全員出世を目指す」日本の働き方は無理すぎる 日本企業は「ジョブ型が標準」へ転換できるか

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中野:総合職・一般職の相互転換制度を導入したものの、5年経過して誰も使っていないというような企業もあります。

鶴光太郎(つる こうたろう)/1960年生まれ。慶應義塾大学大学院商学研究科教授、経済産業研究所(RIETI)プログラムディレクター/ファカルティフェロー。東京大理卒、オックスフォード大学大学院経済学博士(D.Phil.)。専門は組織と制度の経済学(撮影:尾形文繁)

処遇の格差を残したまま制度だけを変えても、実態として活用できないですよね。もともとはオランダなどで、正社員だとしてもパートタイム、フルタイムを相互転換が自由にできる国があり、そこから着想を得ています。

時間が短いと処遇が低いとか出世ができないという状況では、「転換できますよ」と言っても誰も使わない。賃金システムと、整合的に制度を明示する必要があります

中野:昇進の基準自体が曖昧で、ジョブ型を導入したものの、5年や10年運用して「やっぱり誰も出世していないじゃないか」「結局すごく格差が開いた」とわかるようでは、安心して選べない。手当などの格差があることはともかく、事前に明示されることが必要ですね。

一方、「ジョブ型正社員」をデフォルト(標準)化するにはどうしたらいいのでしょう。「無限定正社員」システムはそもそもいいシステムであり、それを維持したいと多くの人が思っていたら、“共有化された予想”が変わらない状況で自発的な変化を待っていたとしても、相当時間がかかると論文で指摘されています。

賃上げよりも雇用の安定が重視されてきた

:労使ともに、従来のやり方をいいシステムだと思っているわけですよね。人事としては無限定社員として雇い、都合よく配属をぐるぐる回せるのは便利でしょう。ジョブ型にすると個々人にあわせて対応をしないといけなくなり、面倒くさくなります。

使用者側としても、年功賃金で社員のインセンティブを落とさないように働かせられるし、労働者側も家族を養えるだけの金額を受け取って、その代わりに長時間労働などの弊害はあるけれど、しょうがないよねとやってきたわけです。

この構造を変えるには、発想の転換が必要です。労働者側は基本的にこれまで中高年層の雇用を守るのが大事で、それ以外の対象を視界の中から外してきた側面があります。それによって、例えば就職氷河期の世代で非正規が増えていくのは仕方ないなどと、犠牲が若い世代に押しつけられてきた労働者側が賃上げよりも雇用安定を重視してきたことが賃金が上がらない背景にもなっています。

ジョブ型になると、拠点が閉鎖されたら解雇される可能性もあるし、処遇が今より低くなる。多様な働き方が出てくればさまざまなメリットがあるとわかっていながらも、処遇悪化は嫌だ、となってしまう。経営側も変えるのは面倒だからと放っておいたら、勝手に改革が進むような推進力はないわけです。

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