吉本を出たIT社長、目指すは「日本のジョブズ」 大家族10人を背に元芸人が挫折を乗り越える

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SOUSEIを創業した2010年、実は乃村はもう1つの転機を迎えていた。生まれて初めてiPhoneを手にしたとき、涙が止まらなくなったのだ。「僕の中でITが花開いた。何でもできる、すごいなと。当時は家とテクノロジーは分離されていたから、結び付けたくて仕方がなくなった」。

実際に乃村がパソコンに初めて触ったのは、2008年だったという。「もう衝撃で、まずはエクセルに感動して、鳥肌が立ちました。今まで僕は何をやっていたのと。逆にこんなすごいものがあるのに、君ら何をやっているのと思いましたね」。その乃村をもってしても、iPhoneの衝撃はパソコン以上だった。

その結果、iPhoneとの出会いを機に、住宅販売というビジネスにジレンマを抱えるようになる。「住宅は引き渡し時が100点だとすると、あとは劣化するだけで、リフォーム以外の手段でアップデートができない。でも電気が通って通信ができれば、住宅の頭脳みたいなコンピューターが入り、対応アプリをインストールすることで機能が増えてくれば、それはめっちゃ面白い。それまでITに出会っていなかったので好奇心爆発ですよ」。

2018年に住宅用OS「v-ex」とマイホームアプリ「knot」をリリースした(撮影:山内信也)

乃村がビジネスの手本にしてきたのは、NTTドコモがリリースした「iモード」。「ITとは商取引を減らしたり、改善する人を減らすものと思っていたが、逆にiモードはITの裾野を広げた。例えば占いの場合、対面で30分や1時間を割く労働集約型のビジネスだったのに、月額300円でユーザーを爆発的に増やした。ユーザーとコンテンツ提供者の双方が、プラットフォームの存続を望んだことがすばらしい」と目を輝かせる。

iPod生みの親にシリコンバレーで直談判!

iPhoneのように住宅にもアプリを入れれば、古くなっても新たなサービスを提供できる。絶対に僕と同じように、住宅に頭脳をつけることを考えている人がいる──。

ネット検索や紹介をつてに探し回ったが、どうやら国内には存在しない。エンジニアの友人が「すごい会社がシリコンバレーにある」と教えてくれた。その会社がSOUSEIと同じ2010年に創業されたネストだった。代表のトニー・ファデルは元・アップル上級副社長であり、スティーブ・ジョブズCEOの薫陶を受けながらiPodを開発した人物だった。

とはいえ、乃村は英語を話せない。Google翻訳を使いながら、お問い合わせフォームから「僕は日本で住宅の頭脳を作ろうと思っているけど、あなたもですよね。意見交換をさせてもらえないですか」とメールを送ると、何と1週間後に返事が来たという。「トップが会いたいと言っているが、来られるか?」。急いで現地の日本人通訳を手配し、シリコンバレーへ飛び立ったのである。

当時のネストは社員50人超。IoT領域におけるゲートウェイ(接続機器)のような、頭脳デバイスを開発していた。ファデルは乃村に対し、「すごいデバイスを作るとき、住宅の頭脳と説明しても、ユーザーは意味不明でついてこられない。だから何かのすごい版とリリースし、気づいたら住宅の頭脳だったとわかるようにすればいい」とレクチャーしてくれた。

ちなみにiPodについても、最初は「ポケットに1000曲を」と発売したが、いずれユーザーが映像も見たくなるし電話もしたくなるので、発売当時から電話を考えて開発していた、との秘話も明かしてくれたという。

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