MMTに強い違和感を感じざるをえない2つの理由 日本の「過度な財政均衡主義」修正には一役か

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そして、同じような問題意識は、現在金融市場の世界でもかなり広まっていると思われる。2012年後半から、欧州債務危機は収束に向かったが、これと前後して欧州で従前の厳格な緊縮財政が和らぎ、世界経済復調をもたらした。また、2017年にアメリカでトランプ政権となってから、減税を主体とする財政政策が同国の経済成長率を高めた。そして、日本同様に緊縮財政に親和的であったドイツでも、最近は僅かではあるが財政政策は拡張方向に向かいつつある。

米中貿易戦争が長期化して、世界経済の下振れリスクが高まっている中で、適切な金融財政政策によって各国は成長率を高めることができるかが、依然としてかなり重要である。実際に、財政政策の必要性を強調する著名な経済学者はアメリカでは多い。

こうした中、日本では2014年に消費増税が実現してから、財政政策は緊縮方向に転じた。増税による景気失速で、上昇していたインフレ率が低下し、その後循環的な回復は持続したがインフレ率の停滞が続いた。今後2019年10月からの消費増税で緊縮財政が再び強化されるが、各国の財政政策が緩和的になる中で、日本だけが特異な存在となる。これまでも当コラムで何度も指摘しているが、2018年から日本株がアメリカ株などとの対比でアンダーパフォームしているのはこれが最大の要因だと考えている。

現時点でMMTの金融市場への影響は「ほぼゼロ」

アメリカでこの理論が注目されている背景には、2020年の大統領選挙を見据えた民主党左派の政治活動が大きく影響している。一方で同国では、共和党、民主党ともに拡張的な財政政策を志向しており、議論が分かれるのは拡大する歳出の中身に移っている。

つまり、MMTによらなくても拡張的な財政政策が続く可能性が高いのである。そして、MMT論者がアドバイザーとなっているバーニー・サンダース上院議員が次の大統領になるなどのサプライズがなければ、MMTは依然としてマイノリティの考えと位置付けられるだろう。このため、MMTが、今後の世界経済や金融市場に及ぼす影響はほぼ皆無だと筆者は考えている。

ただ、財政健全化という「ある種の教条」が広がり、経済政策論争の土壌が凝り固まっている日本では、アメリカと異なる意味でポジティブな効果がいくばくか期待できるかもしれない。先に紹介した浜田氏が指摘するように、MMTの考え方が「解毒剤の一つ」となれば、世界標準に近い経済政策が日本で実現する可能性が高まるからである。

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