小学校受験対策「けん玉の攻防」が映し出す本質 試行錯誤で成功も失敗も経て内面の力を磨く

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「『この問題をこの時期の子どもに解かせる意味は何だろう』と疑問に思いました。しかし問題を子どもと一緒に解いて行くうちに、日に日に生活に変化が起きてきたのです」。

2017年に小学校受験を体験した都内に住むKさん(当時34歳)は打ち明ける。

彼女はわが子が問題を解けるように、日常生活の中で、実際に五感を使って体験させることを心掛けた。わが子と買い物に出かけた際は季節の食材を一緒に選び、料理をして、おかずをお皿に並べるときはどのように配分すれば均等に食べられるのかを一緒に考えた。お散歩では、道端に咲いている草花を意識して見て触るよう促した。日常生活の中で「郵便物を取ったら、手を洗ってクッキーを3枚食べてください」などと、ゲーム感覚で指示を出すようにした。

「すると徐々にペーパーが解けるようになり、話を最後まで聞いて行動に移すことができるようになってきたのです」(Kさん)

小学校受験の入学試験は、「話を聞き取る力がついているか、いないか」で決まるということが、中・高・大学受験との大きな違いだ。

また、中学、高校、大学の一般受験は、偏差値という実力での勝負となるが、小学校受験は学校によっては家族のあり方を問われるケースがある。小学校受験の合否は優劣ではなく、その学校への向き不向きで決まるという側面もある。

子どもの出来や合否にとらわれるのが目的じゃない

中央大学商学部の窪田康平准教授(当時は山形大学地域教育文化学部講師)と慶應義塾大学の大垣昌夫教授は、2013年に発表した「勤勉さの文化伝達―親のしつけと世界観―」において、しつけが子どもの勤勉性に因果関係を持つことを示した。すなわち、親が幼少期のしつけをきちんと行い、基本的なモラルを身につけさせるということは、勤勉性という非認知能力を培うための重要なプロセスなのである。

『小学校受験バイブル 賢い子育てをするために』(あさ出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

もちろん「小学校受験をしなければ非認知能力が培われない」ということはない。小学校受験はあくまで子どもとの関わり方の1つの選択肢だ。子どもをよく見て話を聞き、性格や長所、短所、どんなところを伸ばしていきたいかをじっくり考えるのが親の務めである。

小学校受験を考えている親にとって大切なのは、子どもにとっていちばんの幸せが何かをしっかりと見極めることだ。子どもの出来や合否にとらわれるのが本来の目的ではない。

仮に小学校受験をすると決意した後に、途中でやめてしまったからといって子どもの人生に大きく影響するかといったら、そうでもないだろう。小学校受験をすることでストレスを抱えてしまい、家族から笑い声がなくなるのであれば、本末転倒だからだ。何よりも、笑顔あふれる家庭で伸び伸び育つことが、子どもにとって望ましいことである。

二宮 未央 ライター、コラムニスト

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にのみや みお / Mio Ninomiya

東京都出身。幼稚園教諭を経て結婚。出産・育児に入る。主婦として家事全般や子育てにいそしみつつ、保育士としても活動。保育園新規開園の立ち上げも経験する。2016年から、(株)エアー・シンフォニーに所属。2017年、宣伝会議の編集・ライターコースの卒業制作で最優秀作品賞を受賞。著書に『小学校受験バイブル 賢い子育てをするために』(あさ出版)。

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