「仕事と育児の両立阻む日本経済の病巣とは」 リチャード・カッツ

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子育て無策で女性支持率が低下し始めた安倍首相

 女性の労働参加を阻害している要因がもう一つある。それは、教育水準とキャリアにおけるギャップの拡大である。50年代には女性の50%以下が高卒で、大卒はわずか2%にすぎなかった。現在、18歳の女性の3分の1が大学に進学している。こうした女性はやりがいのある仕事に就きたがっている。しかし、彼女たちにとって結婚は希望の終わりを意味している。

 男性は職場で過ごす時間が長い。30歳から39歳の男性の週平均労働時間は50時間である。うち半分は週60時間以上も働いている。このため、多くの場合、育児を妻に任せきっている。また女性は年老いた親の面倒をみる責任も負わされている。

 川本裕子早稲田大学大学院教授によれば、日本政府による育児支援政策はOECD加盟国の中で最低である。仕事を持っている女性が子育てできるような政策をとれば、効果はあるかもしれない。考えられる政策には、育児休暇、育児手当、保育施設の拡充、高齢者のケアがある。しかし、日本政府の主な目的が歳出削減にあり、企業が雇用コストを削減しているときに、そうした政策が講じられるとは思えない。

 安倍内閣は必要な政策について議論するどころか、むしろ、“被害者を責めている”ように見える。柳沢伯夫厚生労働相は女性を“子供を産む機械”であると言い、安倍首相も子供を産むことは“すばらしい仕事”であると言っている。しかし、女性の出産と仕事に対する選択は、自分がしたいことを選んでいるのではない。環境に強いられて、やむなく選んでいるのだ。アメリカの政治学者レオナード・ショッパは、世論調査で日本の既婚女性は子供2人を産みたがっていると答えているが、実際にそれは不可能であると指摘している。

 日本の女性で“結婚生活に満足している”のはわずか46%にすぎないという。これはイギリスやアメリカ、スウェーデンよりも約20ポイントも低い数字である。安倍政権の発足当初は男性よりも女性の間で人気が高かった。しかし、今や支持率は男女のいずれでも低下している。

 女性が仕事と育児を両立できるような条件をつくりださないと、安倍首相は財政目標の達成よりももっと差し迫った問題に直面するかもしれない。すなわち、7月の参議院選挙後も政権の座にとどまるのは難しくなるということだ。

リチャード・カッツ
The Oriental Economist Report 編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで

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