「自炊塾」、九州大の人気講義は何がスゴいのか 単位をとるのが難しくても学生が集まる理由

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みそを使った料理をわいわいと試食。課外授業は夜9時半まで続いたが、学生たちの楽しそうな様子が印象的だった(筆者撮影)

「自炊塾の狙いは、高度な料理を覚えることではない」と比良松さんは強調する。

「ご飯とみそ汁を作れるようになれば基本はOK。料理の向こう側にある世界まで知ってほしくて始めたんです」。例えば、食を支える農業や漁業といった生産者、料理を作ってくれる人、健康のこと、自炊を通して自己肯定感を高めること、人間関係への影響……。ただし、比良松さんは決して持論を振りかざしたりしない。学生が自然に気付いてくれればと思っている。

授業の最後には「自炊塾を受けて自分が変わったなと思うことを、いちばん身近な人に伝える手紙形式で書く」という課題を出す。そこには親や祖父母、兄弟、農家などへの感謝がたくさんつづられているという。「自分の成長が多くの人たちに支えられていたと多くの学生が気付いてくれます」と言いながら、手紙の一部を見せてくれた。

母へ
大学で学ぶ物理や数学はいつか忘れてしまうかもしれないけど、自炊塾で学んだことは、死ぬまで忘れないと思います。小言だと思っていた母の食事に対する考え方。自炊塾で改めて聞いて、本当に大切なことを伝えてくれていたのだと感じました。18年間、3人分のご飯を作ってくれたこと、感謝しています。
母へ
「あなたは絶対料理しないから、食事付きの寮にしなさい」ってめっちゃ反対したね。周りの人たちから料理のアドバイスやアイデアをたくさんもらえた自炊塾のおかげで、自炊が大好きになって、気づいたら、自炊回数が受講生の中で1番多かったんよ。今度帰った時には、私が料理を作ってあげるね。だから楽しみにしてて!
大切な父へ
受験期に、食べもの買って来てくれてありがとう。
父さんは料理できないから、買い弁ばっかりだったよね。
帰ったら、今度は、俺が手料理ふるまうからね。

自炊塾という食育のスタイルに注目が集まっている

「自炊塾はたった4カ月ですが、その後の暮らしが変わったと言ってもらえるのがうれしい。学年が上がっても卒業しても、自炊している、弁当を作っていると報告してくれる人も多い。自炊塾を経験した学生が社会人になり、いつしか親になり、わが子に自然と食育をするようになって……と将来につながっていくことを願っています」

自炊塾という食育のスタイルは注目を集め、比良松さんには講演の依頼が相次いでいる。昨年1年間だけで、北海道から沖縄まで講演は100回近くにのぼる。

「食育はどこでもやっているけれど、先生たちも自信がないのでしょう。子どもの興味を引き出す自炊塾のスタイルをもっと伝えていきたい。秘訣はそう……“考えるな、感じろ!”です」

佐々木 恵美 フリーライター・エディター

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ささき えみ / Emi Sasaki

福岡市出身。九州大学教育学部を卒業後、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、国連や行政機関の報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人や経営者をはじめ、様々な人たちを取材。

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