崖っ縁のソニー、立ちすくむエレクトロニクスの巨人

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社員自身が品質に不安 サムスンに学ぶ復活の道

開発効率とともに中鉢社長が問題視しているのが、製品品質だ。下の二つのグラフは、週刊東洋経済が独自に入手した、中鉢社長による社内ミーティング資料から作成したもの。品質センターが国内外のソニー社員約1万人を対象に意識調査を実施。浮かび上がったのは、長年のライバル、パナソニックの製品のほうがソニーの製品よりも高品質だと認める社員が4割に上り、自社製品を買って品質にがっかりした経験がある社員が8割を超えたという現実だ。ほかに約半数の社員が、ソニー製は競合他社製品より、耐久性・信頼性の面で劣ると答えている結果もあった。

これが消費者対象の調査結果なら驚きはない。「品質の松下」と言われるように、耐久性や安全性ではパナソニックが優れているというのが、日本の消費者が持つ企業イメージだ。しかしこの調査結果は、ソニーの社員自らが下した評価である。透けて見えるのは、自社のものづくりに対する悲しいほどの自信のなさだ。

ここ数年、ソニーは品質問題に揺れた。記憶に鮮明なのは、06年のパソコン用リチウムイオン電池の不具合。インターネット上では問題の電池を搭載したパソコンが火を噴く画像が出回った。08年にもパソコンの異常発熱などが明らかになった。

製品の不具合そのものはソニーに限らず、どのメーカーでも一定程度は発生する。表面化したトラブルの多寡や市場の風評だけで、ものづくり力に優劣をつけることは危険だ。だが、作り手である社員自身が「自社の製品品質を評価できない」と考えているならば、製造業として大きな問題を抱えていると言ってよいだろう。ヒット商品を生み出せず、利益も出ず、品質も後塵を拝している。ソニーは崖っ縁の状況に追い込まれている。

 

技術からオペレーションへ 速さがテレビを黒字にする

危機脱出の糸口はあるのか。「テレビの復活なくしてエレキの復活なし」。中鉢社長は05年の就任以来、テレビ事業でシェア拡大と黒字化の双方を達成することが最大の経営課題だと繰り返してきた。テレビ事業の健全化に注ぎ込まれる知恵。それを横展開することでエレキ事業全体の活路を開きたい--。

08年秋、品川本社の会議室。集まったテレビ事業本部の若手・中堅エンジニアらは、時折ため息を漏らしながら真剣に耳を傾けた。この日開催されていたのはテレビ技術の社内フォーラム。テーマは「韓国サムスン電子の徹底解剖」。ソニーのテレビ事業は、サムスンから学ぼうとしている。

ブラウン管からの技術移行が遅れ、パナソニックなど競合他社に大きく出遅れてスタートしたソニーの液晶テレビ。05年から展開したブランド「ブラビア」では、部材の液晶パネルをサムスンとの合弁会社や台湾企業から外部調達。ブラウン管時代に築いた販売網で世界中に製品を流通させ、1年で世界シェア2位に浮上した。

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