ルネサス、7年ぶり赤字転落でたどる「茨の道」 財務悪化と幹部交代で競争力も失いつつある

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一層の研究開発費の減少と開発スピードの鈍化も見込まれる。実際、これらの先進技術の開発に取り組んでいた幹部が相次いでその職を去っている。

そうなると、商品力の一層の低下は否めない。ルネサスの製品を扱うある特約店は、今年度のルネサス製品のデザインイン(取引先に製品を採用してもらうこと)の目標額を前年度から15%ほど引き下げている。新しい仕様の製品が実際に売り上げにつながるには数年かかるが、新製品の採用が細ると言うことは将来的な成長が見込めないことを意味している。

足元でも、「ルネサスの商品は値上げがあったり、リストラで取扱商品が急になくなったりして扱いづらくなった」という声も漏れ伝わる。実際にライバル企業が順調に業績を伸ばしている一方で、2018年12月期にルネサスは減収減益に沈んでおり、影響はすでに出始めている。

多額の減損処理を強いられる可能性も

新製品開発の代わりに呉社長ら経営陣が力を入れている、買収による規模拡大戦略にもリスクがある。3月末に米アナログ半導体メーカー、IDTを買収したことにより、ルネサスののれんは2018年12月末の1872億円から9108億円へ、一気に増えた。買収に必要な資金として6980億円を借り入れ、自己資本比率は56.7%から34.5%に大きく落ち込んだ。ルネサスは2019年12月期から国際会計基準(IFRS)に移行しているため、のれんを毎期償却する必要はないが、IDTの業績が悪化すれば多額の減損処理を強いられることになる。ルネサスの自己資本は6351億円だ。

買収による業績押し上げ効果もあまり見込めない。IDTの年間売上高は約900億円、営業利益は約120億円だ。この分がルネサスの業績に貢献するが、買収に伴って発生したのれんのうち一定程度は今後、無形固定資産として組み替えられ、この分は償却する必要がある。2017年に買収したアメリカのインターシル(現ルネサスエレクトロニクスアメリカ)の例を参考にすると、償却で約120億円の営業利益はほぼ吹き飛んでしまう計算だ。ルネサス製品とのシナジーが必要だが、すぐにその効果が現れると期待できない。

IDT買収の目的は、商品の幅を広げて競争力を向上させることにあったが、買収自体が「高値づかみ」だとの批判は免れない。呉社長は3月、「いい結婚にするためにこれからの努力が必要」と語ったが、必要な努力はかなりハードルの高いものだ。

「世界で勝ち抜く」を目標に、ルネサス製品の特約店を絞るなどの改革にも着手しているが、欧米型の改革が日本の顧客に受け入れられるかは未知数。先行き不透明感を反映してか、当初春には示すとしていた中期経営計画も「米中関係の影響がわからない」との理由でいまだに発表できずにいる。

日本に残った数少ない半導体企業として輝きを取り戻すために、ルネサスが取り組まなくてはならない課題はあまりにも多い。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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