「超時空国家」アメリカを生み出す原動力 日本に足りないのは「パワフルな妄想」だ

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:最近は日本の野球ファンもその物語に洗脳されてしまって、「野球はアメリカが一番で、日本も含めて他国のリーグはアメリカのマイナーリーグ」と思っている人が増えている。これは日本の野球ファンには迷惑な話なんです。

マーケットについても同じで、アメリカが唱えたグローバルマーケットというコンセプトが広まった結果、1990年代の前半ぐらいまであった各国の文化を背負った経済社会の形、日本でいえば「日本型資本主義」「日本型経営」といったスタイルはいつの間にかマイナーリーグ扱いになってしまった。「みんなでメジャーリーグを目指そうぜ」とアメリカに言われて、日本などはそれに乗ってしまったというイメージですね。

中野:相手の土俵で勝負して、マイナーリーグに落ちたという。

:佐藤さんもおっしゃるように、どの国でもそれぞれファンタジーは持っていると思うんです。ただそのファンタジーは普通は文化とか伝統と呼ばれる、何世代もかけてつくってきた物語を引き継いでいて、その延長として出てくるような共通の幻想だった。だからある地域のある時代の物語と、別の時代、別の場所の物語というのはまったく文脈が違っているわけです。

普通なら「そのファンタジーはあなたたちには魅力的かもしれないけれども、われわれには関係ないでしょう」と言っておけば済むものが、アメリカの場合は固有の時間と場所という要素を欠いたファンタジーになっていて、それを世界に広めようとしてくる。そこが困るところであり、興味深いところでもあります。

理想と妄想は同根

中野:この本はさすがにアメリカ人が書いているだけあって、日本人が理想視しているような人たちも、実は相当いかれていたということを片っ端から暴き出していますよね(笑)。

世間ではトランプという変な人が突然出てきたということになっているけれども、この本でも書かれているように、トランプは決して最初に現れた狂気と幻想の大統領ではない。

柴山 桂太(しばやま けいた)/京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。専門は経済思想。1974年、東京都生まれ。主な著書にグローバル化の終焉を予見した『静かなる大恐慌』(集英社新書)、エマニュエル・トッドらとの共著『グローバリズムが世界を滅ぼす』(文春新書)など多数(撮影:佐藤 雄治)

柴山:歴史上の偉大な大統領といわれているような人は、伝記を読むと、リンカーンにしてもフランクリン・ルーズベルトにしてもジョン・F・ケネディにしても、人間的にはかなりおかしなところがあった人たちですよね。みんな魅力的な夢を語ったわけです。でもその話をよく聞いていくと……。

中野:完全におかしい。ビル・クリントンなんかも若い頃ヒッピーでしたしね。

柴山:ねえ(笑)。でも、結局は偉大な大統領にということになっている。それはなぜなんでしょう。

中野:彼らの理想主義というのは根っこがトランプと同じなんだと思うんです。大きな理想を語って世の中を動かそうとするということと、妄想を抱いてそれを実現しようとすることは、実は同じ現象なのだということ。

前に『東洋経済オンライン』で書いた記事のコメントに、「アメリカがファンタジーランドと言うけれど、日本と違って魅力的な製品をたくさん生み出したのは、幻想とか夢を抱いているからじゃないか」という感想があったんですが、それはそうだと思うんですよ。奇想天外な映画をつくったり、常軌を逸したプロダクトを発明したというイノベーターなんて、どこかおかしいに決まっている。それはアメリカ人に限らない。

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