建設現場の外国人「処遇改善」で日本人と大差 建設キャリアアップシステムで何が変わるか

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「建設技能労働者の賃金のピークは40代前半に到達し、50代半ばから急速に賃金が下がっていく。これが製造業との賃金格差を生む原因。現場管理や後進の指導などのスキルが正しく評価されていないからだろう」(国交省幹部)

CCUSの最大の特徴は、技能労働者の技能レベルを4段階で評価して、IDカードの色で識別できるようにしたことだ。技能レベルが賃金に反映されやすい環境を整えるのが目的だが、発注者にとっても要求するレベルの技能者に仕事を依頼し、現場で写真付きのIDカードで確認することが可能になる。

建設技能労働者の処遇改善に向けたシナリオを実現するためにも、できるだけ多くの建設技能労働者にCCUSに加入してもらうことが不可欠だ。しかし、日本人労働者の加入は原則として任意。国交省では初年度100万人、今後5年間で建設技能労働者全員の加入を目指すが、「現時点では加入するメリットが感じられない」との声も少なくない。

当初は2018年10月に開始予定だった

CCUSの運営主体は、国土交通省の外郭団体である建設業振興基金だが、システムの開発費用や運営費用はすべて民間の負担。技能者の登録料は2500円(有効期限約10年)で、工事現場の登録やデータ入力の費用などは事業者側の負担となる。それに見合ったメリットを打ち出していくことが重要だろう。

CCUSの構想は、さまざまな職種の技能者が入れ代わり立ち代わり出入りする建設現場での煩雑な労務管理を、IT(情報技術)を使って一気に効率化しようとのアイデアから生まれた。

2011年からは大手ゼネコンを中心にシステム構築が動き出したが、業界内で足並みがそろわず、紆余曲折があった。その事情は「建設労働者の処遇改善が一向に進まないワケ―10年がかりで取り組むプロジェクトの弱点」(2015年1月29日)で詳しく書いた。

記事掲載の4カ月後の2015年5月に、国交省がシステム構築の意向を正式に表明。2016年4月に官民コンソーシアムが発足して、建設業振興基金がシステム開発に着手した。当初は2018年10月から運用開始する予定だったが、半年スケジュールが伸びて、やっと実現にこぎ着けたわけだ。

今後は、CCUSをベースに、建設業退職金共済(建退共)システムとのデータ連携、建設技能労働者と専門工事会社の「技能の見える化」のための評価基準、民間事業者とのシステム連携(API連携)などの開発が進んでいく。これらの付加機能が提供されると、CCUSのメリットも実感できるようになる。

さらに地方自治体、民間企業、消費者などの発注者が、CCUSの機能を積極的に活用するようになれば、業界側も対応せざるをえなくなるだろう。CCUSの導入・普及のカギを握るのは発注者である。

千葉 利宏 ジャーナリスト

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ちば・としひろ / Toshihiro Chiba

1958年北海道札幌市生まれ。新聞社を経て2001年からフリー。日本不動産ジャーナリスト会議代表幹事。著書に『実家のたたみ方』(翔泳社)など。

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